旧満州(中国東北部)に入植した日本人の家庭に生まれ、敗戦時2歳だった松倉秀子さん(79)=兵庫県尼崎市=は、実の家族とはぐれて中国人の養父母に育てられた。1972年の日中国交正常化から17年後、45歳で永住帰国したが、肉親とは再会できず、母国の十分な支援を得られずに苦労を重ねた。国交正常化から29日で50年。こつこつ習得した日本語で今も残留孤児の体験を語り伝えている。
実の家族については、記録も松倉さんの記憶もない。敗戦の混乱にあって、病気で弱っていた母が中国人夫妻に託したという。
一緒に渡された紙には、家族や自身の名前、生年月日が書かれていたとみられる。ただ紙は失われ、養父母が覚えていたのは、生まれ年と「蘭」という文字だけで「馬秀蘭(ましゅうらん)」と名付けられた。
幼少期は「日本人」「日本語をしゃべれ」とからかわれたが「優しい養母の前では決して泣かなかった」。養母と共に素性を知る人がいない村に移住。教師になり中国人男性と結婚し2人の子どもが生まれた。
■文化交流
日中共同声明が調印された当時は「中国人として生きていこうと思っていた」と振り返る。
文化交流が始まると、中国で日本のテレビドラマを見られるようになった。中国残留孤児をテーマにした映画も公開され、日本人の母と娘が再会するシーンに涙が止まらず、日本や肉親への思いが募った。
養母が亡くなった82年、「肉親を捜そう」と帰国を決意したが、実現までの道のりは遠かった。
国交正常化以前、残留孤児・邦人は帰国自体が難しかった。国交が結ばれても、中国人として入国手続きを取らなければならないケースが多かった。松倉さんのように終戦時の記憶がない世代は手がかりが少なく、自力で肉親を捜すのは難しかった。
日本政府は81年にようやく、孤児らが日本を訪れて肉親を捜す「訪日調査」を始めた。松倉さんは日本大使館に何度も手紙を書き、86年の調査で初めて日本の地を踏んだが、身元は分からなかった。
■二つの祖国
89年に家族4人で永住帰国を果たし、清掃員の職を得たが、慣れない日本語で「中国人」と呼ばれ、時にののしられた。「なぜ日本に帰ったのか」と悔し涙を流すこともあったが、子どもたちのために働いて2人を大学まで行かせた。
松倉さんは毎週、支援団体「コスモスの会」が尼崎市内で開く日本語教室に通い、伊丹や宝塚市の教室でも学んでいる。
日本語で自身の過去を語る機会が増え、8月も請われて講演した。日中関係の緊迫も言われるが「松倉さんだから平和の大切さを語れる」と励まされるという。二つの国を知る自分が、隙間を埋める役割を果たせないかと考えている。
◇
中国「残留日本人孤児」を支援する兵庫の会の代表世話人で摂南大の浅野慎一特任教授(社会学)は「政府がもっと早く帰国させていたら、肉親に出会える可能性は高まったし、日本語習得の苦労も少なかった」と指摘する。
帰国者と家族に対する支援も乏しく「中国残留孤児は戦争被害ではなく『戦後被害』」と話す。孤児らの国家賠償訴訟を経て、2007年に改正支援法が成立したが、保障の対象外とされる2世などが困窮するケースは後を絶たない。
(金 慶順)
【中国残留孤児訴訟】国の移民政策で旧満州に渡り、置き去りにされた中国残留孤児ら計約2200人が全国15地裁で提訴した。一審神戸地裁は2006年12月、原告65人(1人死亡)のうち61人の請求を認め、国に総額約4億7千万円の賠償を命じた。唯一の勝訴判決。孤児らに身元保証を求めて早期帰国を認めなかった政府を批判し、日本語習得や就職活動を支援するよう指摘した。

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