北朝鮮拉致問題が進展しない中、神戸出身の拉致被害者ら2人への関心がにわかに高まっている。政府認定拉致被害者の田中実さん=失踪当時(28)=と、拉致の可能性が排除できないとされる金田龍光(たつみつ)さん=同(26)。9月、かつて北朝鮮からの2人の「一時帰国」の提案を政府が拒否したと報じられ、10月に入り臨時国会で野党が追及。11月には2人を題材にした演劇が東京で上演される。日朝関係は膠着(こうちゃく)状態が続くが、劇団員らは「人ごとだと思わないで」と訴える。(末永陽子)
9月の共同通信の報道によると、2014~15年ごろ、北朝鮮による2人の「一時帰国」の提案を当時の安倍政権が拒否していた。「提案に応じれば北朝鮮が拉致問題の幕引きを狙う」と警戒し、拒んだとみられている。開会中の臨時国会で野党が経緯を追及したが、岸田文雄首相は事実関係の明言を避けた。
支援組織などによると、田中さんは1978年、勤務していた神戸市東灘区のラーメン店の店主に海外旅行に誘われウィーンに出国後、行方不明に。同じ店の店員だった金田さんも79年、「こちらに来ないか」と誘う田中さんを名乗った国際郵便を受け取り上京した後、消息が途絶えた。
2人は同市灘区の児童養護施設で育った。当初、身寄りがほとんどない2人の救出に取り組む人は少なかった。支援組織の特定失踪者問題調査会が田中さんを調査する過程で、金田さんの失踪も発覚したという。
北朝鮮の元工作員が96年、田中さんの拉致を告発する手記を月刊誌に寄稿し、田中さんは05年に被害者に認定された。
◇
2人を題材にした演劇「よそのくに」を企画したのは、東京都墨田区を拠点とする「劇団こむし・こむさ」。11月2日に同区のシアターX(カイ)で上演する。代表の野村勇さん(73)が神戸を訪れて田中さんらの足跡をたどり、脚本を仕上げた。
拉致問題に長年強い関心を持ち、集会に参加したり資料を集めたりしてきた野村さん。18年に英国で拉致問題を題材にした舞台が上演されたニュースに刺激され、脚本に取りかかった。
劇中で主人公とした田中さんとは、同じ1949年生まれ。上演するにあたり、昨年、2人が暮らした阪神青木駅周辺などを歩き、六甲山や海を眺めながら「この光景をどれほど見たいか。どれだけ帰りたいか」と思いをはせた。「人生や自由が理不尽に奪われることがあってはならない。だれでも被害者になり得ることを知ってほしい」と呼びかける。
舞台は、児童養護施設でも同室だったという2人の拉致前の会話から始まり、拉致後へと続く-。同作は21年、演劇総合雑誌「テアトロ」でテアトロ新人戯曲賞佳作を受賞した。
午後2時、午後6時半の2回。前売り2800円、当日3千円。申し込みはhttp://www.ichikiyo.com/komushi.htm
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