サッカーの元スペイン代表で、J1ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手が立ち上げたシューズブランドに、地元・神戸の匠の技が生きている。靴作りに欠かせない靴型を担ったのは、神戸市長田区にある専業メーカー大山の大山義勝社長(74)。手作業で足の幅や甲を測って仕上げた型は、本人から「履き心地がいい」と一発OK。フィールドでの華麗なプレーを支えている。
(高見雄樹)
イニエスタ選手は9月、サッカーシューズブランド「Capitten(キャピテン)」を立ち上げた。現役選手が自身のブランドを新設するのは異例で、自らスパイクを試合で使う。神戸市中央区八幡通4に基幹店を構え、11月上旬に本格オープンさせる。
新ブランドのプロジェクトは約1年前に始まった。資金を融資する地元の神戸信用金庫を通じ、数々のプロスポーツ選手の靴を手がける大山さんに白羽の矢が立った。イニエスタ選手が神戸・長田の本社を訪れ、足の形を計測。最新の立体計測器を使いつつ、「手で測るのが基本」という大山さんはメジャーを手にイニエスタ選手の足と向き合った。
ゴルフの石川遼選手や上田桃子選手らやサッカー選手の足を見てきたが、イニエスタ選手は「別格やった」と振り返る。「優しい足というか、きれいな足。赤ちゃんみたいな足と言ったらいいかな。ゴツゴツした足を想像していたので、サッカーをやっているように見えなかった」
仕上がった靴型の「マスターモデル」には、足の指を骨折したことがあるイニエスタ選手への気遣いが。「小指の付け根部分に余裕を持たせ、かかとの後ろは締め付けてフィット感を高めた」と明かす。
靴型を使って試作したシューズは通常、試し履きをした本人から微修正の要望を受けて数回は作り直す。ところが今回、修正の依頼はなく、大山さんは「一発OKは初めてで奇跡的。技術の積み重ねが実ったようだ」と喜ぶ。
靴型メーカーは、神戸・長田の地場産業ケミカルシューズ製造に欠かせない。阪神・淡路大震災前、市内には15社ほどを数えたが、大量生産できる中国やアジアの後発メーカーの台頭で、今では2社に。国内でも計7社にまで減った。
神戸の街に深い愛情を持つことで知られるイニエスタ選手は、自身のブランドに神戸のメーカーが関わることを喜んでいるという。神戸・三宮の基幹店ではスパイク(1万8150円~、子ども用1万4850円)のほか、ユニホームやTシャツなどを販売。専用サイトも開設した。
同ブランドの企画・販売会社キャピテン(神戸市中央区)には、イニエスタ選手が取締役に名を連ねる。神戸信金の融資のほか、系列ファンドなどが年内に出資を予定。大手スポーツ用品店などにシューズの販路を広げる。
高橋浩二社長(42)は「神戸発の世界ブランドを目指し、将来は株式上場も視野に入れたい」と話した。
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