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子どもたちが歓声を上げて遊ぶ隣では、仕事をしたり、ティータイムを楽しんだりする親の姿が=神戸市中央区八幡通4、PORTO
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子どもたちが歓声を上げて遊ぶ隣では、仕事をしたり、ティータイムを楽しんだりする親の姿が=神戸市中央区八幡通4、PORTO
「学校・園・職場、家庭に次ぐ第3の場がポルト」と話す佳山奈央さん=神戸市中央区八幡通4、PORTO
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「学校・園・職場、家庭に次ぐ第3の場がポルト」と話す佳山奈央さん=神戸市中央区八幡通4、PORTO

 子どもだけでなく、親も居心地がいい-。そんな空間を目指す神戸・三宮の民間子育て支援施設「PORTO(ポルト)」が注目を集めている。保育所とワークスペースを組み合わせたようなスタイルで、自由に遊ぶ子どものそばで親が仕事をしたり、ティータイムを楽しんだり。和やかな雰囲気が好評で、利用者数が右肩上がりの施設を訪ねた。

 10月半ばの日曜午後。神戸・三宮の駅前から南へ5分ほど歩き、雑踏を抜けるとビルの1階にポルトが見えてきた。中に入ると、おもちゃに囲まれた遊び場から幼児らの歓声が響いてくる。

 神戸市中央区の会社員(42)は2歳と5歳の娘と利用中。パソコンを使ってテレワークで作業しながら、時折、傍らの2人の娘と笑顔で会話する。「スタッフが面倒を見てくれるので安心して子どもを任せられる。私は自分の時間を有意義に使える」。妻は自宅でくつろぎながら家事をこなしているという。

 一方、現実は共働きのため、夫婦とも時間的にゆとりのない育児になっているそうだ。

 「親が育児の全てを抱え込み過ぎると大きなストレスになる。こうしたスペースがあると助かる」

■適度な距離感

 ポルトは利用対象が0~12歳。予約なしでも利用でき、常駐の保育士が一緒に遊んだり、面倒を見てくれたりする。その間、保護者は仕事や読書などができるスペースで自由に過ごせる。外出する際の一時預かり制度(予約制)もある。

 ポルトの佳山奈央代表(30)は「親と子の適度な距離感を大切にしている。ずっと一対一で密に接していると、親も疲れてしまう」と説明する。

 佳山さんは19歳だった大学2年の時に長男を出産し、シングルマザーとして子育てを続けてきた。

 卒業後は会社勤めをしながら、保育園をはじめさまざまな子育て施設を利用。だが、シングルマザーのためか、施設の職員から「悩みはない?」「子どもさんとうまくいっているの?」と尋ねられることが多く、まるで調べられているように感じたという。

 「善意とは分かっていても、プレッシャーを覚えた。だんだんと足が遠のき孤独に陥り、誰にも本音で悩みを話せなくなった」と振り返る。

 そうした苦い記憶から、佳山さんは、ポルトでは親にリラックスしてもらうことを優先し、いきなり話しかけるのは控える。こうしたやり方が奏功し、保護者の方から自然に話してくれるようになったという。

■利用者は約50倍に

 ポルトは2020年12月にオープンした。当初は60家族程度の利用だったが、現在は50倍近い2830家族に達する。

 背景にあるのが、新型コロナウイルス禍だ。行動制限に伴い児童館などの子育て施設を利用できない時期もあり、「親子が行き場を求めていた」と佳山さん。

 そんな中でもポルトは感染対策を徹底して営業を続けた。孤立を深める親のニーズを受け止めたといえる。ある母親は「ちょっとしんどい時に頼れた」と感謝を伝えてきたという。

 佳山さんは、社会が保護者の負担にもっと目を向けてほしいと願う。ポルトを開設したのも、自らの子育て経験から、親の重圧を軽減するのが目的だった。育児は四六時中忙しく、自分の時間をほとんど持てないなど、自己犠牲を強いられがちなことに疑問を抱いてきた。

 「親も心地よく生きる。それをポルトで手助けしたい。すると子どもも幸せになるはずです」

 佳山さんはそう締めくくった。

     ◇

 料金など詳しくはポルトTEL078・891・3839

■コロナ禍で進む親の孤立

 コロナ禍が子育て中の親の孤立を深めてきたことは、川西市のNPO法人「育ちあいサポートブーケ」の調査でも明らかだ。昨年9月から約2カ月間、コロナ禍が子育てに与える影響についてアンケートを実施し、3歳未満の乳幼児を持つ兵庫県内の保護者447人から有効回答を得た。

 その結果、98・5%が「(新型コロナの)感染が不安」とし、54・3%が「社会からの孤立感がある」と答えた。

 中でも同法人の蔵原亜紀代表は、半数以上が「親子だけの時間に息が詰まる」「子どもにイライラする」と回答したことに着目。「子どもが幼いと親は目を離せないため、母親は予定通りに家事をこなせない。やがてストレスをためこんでいく」と指摘する。

 「孤独感を抱かせないためには、親が安心でき、頑張りに共感できる場がいる。コロナ禍で人との交流が切れかけた今こそ、そんな視点の支援が求められる」と蔵原さん。「PORTO」が注目を集める理由が分かった気がした。

(津谷治英)

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