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複数人で乗れる円盤型のブランコ。小さな子どもも寝そべって乗ることが可能だ=稲美町国安、稲美中央公園
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複数人で乗れる円盤型のブランコ。小さな子どもも寝そべって乗ることが可能だ=稲美町国安、稲美中央公園
緩やかなスロープ付きの大型遊具。車いすを使う子どもも登って遊ぶことができる=稲美町国安、稲美中央公園
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緩やかなスロープ付きの大型遊具。車いすを使う子どもも登って遊ぶことができる=稲美町国安、稲美中央公園

 「インクルーシブ遊具」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「インクルーシブ(包括的)」は「誰も仲間はずれにしない」「みんな一緒に」などの意味で使われる言葉で、障害の有無や年齢、国籍といった特性に関係なく誰もが遊べる遊具のことを指す。全国的に広がりつつある同遊具について、兵庫県内の設置状況などを取材した。(勝浦美香)

 「ゆっくり回すねー」

 11月中旬のある日、稲美中央公園(同県稲美町国安)に、近くの県立いなみ野特別支援学校や幼稚園の子どもたちが遊ぶ姿があった。傍らには見慣れた遊具に混じり、一風変わった形状の遊具が並んでいる。

■一工夫凝らして

 同公園にさまざまなインクルーシブ遊具が整備されたのは、リニューアルオープンした今年4月のことだ。

 外向きに一度に5人が腰かけられる回転遊具は、一昔前にあったジャングルジム型と比べて、安定して座ることができるといい、スピードも出にくい。

 車いすの女子児童(7)が大好きという滑り台は、傾斜の緩やかなスロープがデッキまで伸びているため、階段を上れる友だちと遊ぶことができる。

 ブランコは座板部分に一工夫が。体全体を包み込むチャイルドシート型や、下半身をしっかり固定するバケツ型、寝そべったり複数人で乗ったりできる円盤型があり、幼児でも使いやすい形になっている。

 子どもたちを見守っていた同校小学部長の堀口研介さん(47)は「ブランコが怖い子でも円盤型なら友だちと一緒に乗れる。ほんの少しのことだが、子どもたちには大きな違い」と説明する。

 インクルーシブ遊具は、県内でも増えている。淡路市の国営明石海峡公園では、2004年度に同遊具が完成。車いすを降りずに楽しめるテーブル型の砂場や、スロープ状の渡り廊下、車いすやベビーカーでも通行しやすいゴムチップ舗装を整備した。明石市でも来年度、同遊具を備えた公園が市西部にオープン予定のほか、時期は未定だが、県立明石公園(明石市)の2カ所に同遊具を設ける方針が固まっている。

■キーワードに

 多彩な遊具の開発・販売を手がける「コトブキ」(東京都)は、海外の公園からヒントを得て、知的障害や発達障害のある子、言葉が分からない外国人など、すべての人に優しい-をコンセプトに、インクルーシブ型の遊具を20年から開発する。同社が取り扱う製品は、当事者から聞き取ったさまざまな意見が反映されているという。

 例えば、発達障害のある子どもの中には、遊具は使えても、初めて行く場所や知らない人と遊ぶのが苦手なケースがある。ドーム形の遊具は登って楽しむ以外に自分だけの隠れ家にもなるため、そうした子どもも安心して使えるという。

 また、自閉症の子どもはルールが可視化されることで理解しやすくなるため、設置する際、順番待ちを示す足跡マークを地面のゴムチップ舗装につけるなどの工夫も施す。

 同社プロダクトマーケティング課の福田英右さん(47)によると、昨年からは市町村に加えて小学校や保育園、特別支援学校からの問い合わせも増えているといい、「(インクルーシブ型の遊具は)公園やグラウンドを整備する時のキーワードの一つとして既に定着しつつある」と話す。

 「ただ、遊具さえ置けばそれでいい訳ではない」と福田さん。障害のある子どもを持つ親の中には公園を訪れても「周りの子たちに迷惑をかけているのでは」と焦り、すぐに帰ってしまう人もいるといい、「遊具はあくまで人が集まるきっかけの一つ。誰もが使いやすいよう、利用者同士の譲り合い、思いやりの心が大切になる」と強調している。

     ◇     ◇

■県内でも拡大、環境整備に課題

 兵庫県立大大学院緑環境景観マネジメント研究科の美濃伸之教授によると、公園のユニバーサル化が本格的に検討され始めたのはバリアフリー法が制定された2006年以降。しかし義務化されたのは園路とトイレだけで、遊具は対象外だったため、障害のある子どもらに配慮した遊具が導入されることは少なかったという。

 そうした遊具が「インクルーシブ」という言葉とともに身近な場所に設置され始めたのはつい最近のことだ。東京都立砧(きぬた)公園が「インクルーシブ公園」として知られるようになったこともきっかけの一つとされる。

 インクルーシブ遊具が広がりを見せる一方で、「遊具そのものにばかり目が行きがちなのが課題」と美濃教授。「遊具へのアクセス、駐車場やバリアフリートイレとの近接性なども考える必要がある」と訴える。

 また現状はインクルーシブ遊具の定義も曖昧といい、「利用者の意見を丁寧に聞き取っているか、聞き取った意見が本当に反映されているか怪しい遊具もある」と指摘する。

 その上で、「今後は整備された遊具の仕様よりも(空間全体を)どう作り上げていくのかというプロセスが重要になるのでは」との見方を示す。

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