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ソウルの繁華街・梨泰院で発生した雑踏事故を伝える神戸新聞の10月31日付朝刊紙面
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ソウルの繁華街・梨泰院で発生した雑踏事故を伝える神戸新聞の10月31日付朝刊紙面
花花火大会の事故現場近くの住人が撮影した、事故前に花火見物客であふれる歩道橋=2001年7月21日、明石市
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花花火大会の事故現場近くの住人が撮影した、事故前に花火見物客であふれる歩道橋=2001年7月21日、明石市
事故直後の歩道橋。左奥に曲がった手すりが見える=2001年7月(明石市提供)
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事故直後の歩道橋。左奥に曲がった手すりが見える=2001年7月(明石市提供)

 韓国ソウルの繁華街、梨泰院で10月、日本人2人を含む158人が死亡した雑踏事故と、2001年に明石市で起きた歩道橋事故との類似点が注目されている。ソウルの事故は、韓国警察庁が捜査を進めているが、超過密状態と群衆雪崩の発生状況、警備体制の不備などが徐々に明らかになりつつある。「身内」に捜査が及ぶ警察の立場も共通で、歩道橋事故を知る兵庫県警の元幹部は人流に着目し、「『一方通行』の規制が抜け落ちていたことが何よりの痛恨」と指摘する。

「同じ失敗」

 ソウルの事故は10月29日夜に発生。新型コロナウイルス対策の規制解除後に迎えたハロウィーン前の週末で、韓国メディアの報道などによると、一帯の人出は推計十数万人に上った。

 現場は幅約3メートルの狭い坂道。仮装した若者らでごった返す中、身動きが取れなくなって群衆に押しつぶされた人たちが命を落とした。周辺の駅や大通りなど複数方向から人が流れ込んで群衆雪崩を引き起こし、立ったまま亡くなった人もいたという。

 「あの時と同じ失敗だと思った」と明石の事故を振り返るのは、兵庫県警元地域部長の田山映二さん(76)。「危険箇所を一方通行に規制することが最も重要かつ有効な対策だった」と話す。

3方向の人流

 明石の歩道橋事故では、花火大会で詰めかけた見物客が歩道橋上で次々と倒れて11人が死亡、247人が負傷した。当時の人出は推定約8万3千人とされ、明石市の事故調査報告書によると、JR朝霧駅と大蔵海岸をつなぐ全長約100メートルの歩道橋上には見物客らが最大で約6400人滞留した。

 事故現場は幅員が通路の6メートルに対し、海岸につながる階段の手前で3メートルまで一気に狭まる「ボトルネック構造」。花火が終わり駅へ、海岸へ、さらには階段上の「展望デッキ」を離れようとする3方向からの人流が押し合い、折り重なるように倒れた。

 県警の雑踏警備室には当時、歩道橋に設置されていたステンレス製の手すりが保管されている。

 田山さんが地域部長時代に明石市から譲り受けた。ぐにゃりと曲がった手すりは雑踏事故の圧力を示すものとして、研修などで使われている。田山さんは「歳月とともに人の記憶は風化する。都度、原点に立ち返って気を引き締め直す必要がある」と戒める。

密度と人員配置

 県警は事故翌年の02年に教訓を盛り込んだ「雑踏警備の手引き」(全120ページ)を作成し、ホームページで公開している。ソウルの事故直後からダウンロード数が急増。1カ月平均170件だったのが10月29~31日の3日間だけで4万件近くに跳ね上がり、11月になっても月間2万9844件と、高い関心を集める。行政機関だけでなく、「多くの人にもっと知ってもらいたい」という個人からの問い合わせも目立つ。

 手引きは、群衆の密度ごとに起きる現象を解説する。1平方メートル当たり10人で「手の上げ下げが困難」になり、11人を超えると「体の自由がきかず苦痛を感じる(悲鳴が起きる)」、13人が「密度の限界」。明石の事故は1平方メートル当たり13~15人の高密度で起きた。

 群衆雪崩は同10人以上の超過密状態で起きやすいとされ、ソウルの事故も明石のケースに近いか、それ以上の密集が生まれた可能性が考えられる。

 手引きは有効な対策としてロープなどを駆使し「人の流れをぶつからせない」「一方通行が大原則」と強調する。

 明石の歩道橋事故では、警察の警備計画の甘さや体制の不備も指摘された。現場には、暴走族や事件に対応する警察官が292人配置されたが、雑踏対策の担当者はわずか36人だった。当時の現地警備本部の指揮官だった明石署の地域官は業務上過失致死傷罪に問われ、有罪となった。

 ソウルの事故でも都心のデモに機動隊員を約4千人動員した一方、梨泰院には20人しか配置されていなかったとされ、批判が高まっている。今月には、事故の恐れを指摘した報告書の破棄を指示したとして、ソウル警察庁の幹部らが逮捕される事態となった。

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