総合 総合 sougou

  • 印刷
大蔵小学校の階段踊り場に飾られている鳥瞰図を見上げる井沢さんの遺族ら=朝来市和田山町宮田
拡大
大蔵小学校の階段踊り場に飾られている鳥瞰図を見上げる井沢さんの遺族ら=朝来市和田山町宮田
井沢元晴さん(提供写真)
拡大
井沢元晴さん(提供写真)
旧与布土小学校の校舎を活用した施設に残されている鳥瞰図「私たちの郷土 山東町」=朝来市山東町溝黒、朝来市シルバー人材センター
拡大
旧与布土小学校の校舎を活用した施設に残されている鳥瞰図「私たちの郷土 山東町」=朝来市山東町溝黒、朝来市シルバー人材センター
井沢さんの孫で漫画家の常夏さわやさんが昨年、祖父のことを広く知ってもらおうと描いた漫画。独自の制作工程を紹介する
拡大
井沢さんの孫で漫画家の常夏さわやさんが昨年、祖父のことを広く知ってもらおうと描いた漫画。独自の制作工程を紹介する

 「昭和の伊能忠敬(いのうただたか)」「漂泊(ひょうはく)の絵図師」と呼ばれた神戸市生まれの井沢元晴さん(故人)はかつて、「郷土を愛する子どもは、戦争をしない大人に成長する」と考え、学校向けに鳥瞰図(ちょうかんず)を描いた。半世紀以上たった今、その作品が兵庫県朝来市立大蔵小学校など少なくとも3カ所に残っていることが分かった。11月上旬には、井沢さんの遺族と作品の「対面」が実現。ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、遺族は「父が込めた思いが子どもたちに伝わればうれしい」と話す。(中島摩子)

■「生き残った自分はやすやすと暮らしてはいけない」

 1990年に75歳で没した後、今年5月に大阪府立中之島図書館で開かれた作品展「鳥瞰図絵師列伝」で紹介されるなど、再び注目を集めている井沢さん。長女の足立恵美子さん(74)=神戸市西区=によると、父は神戸の印刷会社に勤めながらデザインを学んでいたが、28歳で陸軍に召集され、船舶兵としてフィリピンへ。作戦地図として、上空から地上を斜めに見下ろしたような鳥瞰図を描く役割を担っていたという。

 終戦後は「生き残った自分はやすやすと暮らしてはいけない。亡くなった戦友に申し訳ない」と語り、原爆投下直後の広島や空襲で傷ついた神戸、阪神間などをスケッチして回った。

 その後、鳥瞰図を社会科教材として活用させてほしいと学校から提案され、移り住んだ鳥取県倉吉市を拠点に、近畿や中国地方の小中学校に作品を納めるようになったという。子どもたちが、鳥瞰図をきっかけにわが町を知り、町を愛する。それが不戦につながると信じた。

■自転車と徒歩で町をくまなく

 自転車と徒歩で町をくまなく見て回り、記憶とメモを頼りに作品を仕上げる独自のスタイルで、メディアに「昭和の伊能忠敬」と紹介されたことも。足立さんが保管する60年代の新聞には朝来や赤穂、三木、丹波市など、県内の複数の学校に井沢さんが作品を届けたことが記されている。

 その一つが、朝来市立大蔵小の階段踊り場に飾られ、今も子どもたちの目に触れていた。

 判明のきっかけは今年9月、井沢さんの三十三回忌に合わせて神戸で企画された「戦災スケッチ画展」だ。取材した記者が、足立さんが「父が一生懸命描き、学校に納めた作品が、今どうなっているのか分からない」と話すのを聞き、古い記事をもとに学校に問い合わせた。記事にあった赤穂や三木市の小学校では「それらしきものは見つからない」「校舎の建て替えがあり、なくなっている可能性が高い」との答えだったが、朝来市和田山町の枚田小で「本校では見つからないが、大蔵小にそれらしい鳥瞰図が」との情報が寄せられた。

■記憶をもとに捜索し…

 11月7日、足立さんと、井沢さんの孫の佐々木純子さん(49)らが大蔵小を訪問。作品は縦約180センチ、横約235センチで「私たちの和田山町」というタイトルとともに「昭和40年10月 元晴」と記されてあった。

 足立さんは「父は戦後、思いを貫いてきた。大切に残してもらい、うれしさで胸が詰まる」。小倉畑祐貴校長(58)は「平和を希求する意図で描かれたものだと、今回初めて知った。子どもたちに語っていかないといけないと思うし、地域の人にも伝えたい」と話す。

 小倉畑校長や職員の記憶をもとに、旧与布土小の校舎を活用した朝来市シルバー人材センターや豊岡市立弘道小にも作品が保管されていることが判明。足立さんはメール(emikobook@yahoo.co.jp)で、父の作品の情報を募っている。

■地域の財産といえる作品 日本全国の鳥瞰図約100点を収録した本「鳥瞰図!」(140B)の著者で遺族とともに朝来市立大蔵小学校を訪れた作家本渡章さん(70)=大阪府大阪狭山市=の話

 各地の学校に贈られた郷土地図は、井沢元晴という絵師の原点で、その生涯で最も重要な仕事だったと思う。郷土地図は各学校が校舎に掲示し、伝えていくのが理想。それが一番、作品が生き、地元の子どもたちや大人の方々の人生の一部になっていくと思う。井沢元晴の鳥瞰図は、地図だけど絵画的で、風景の中に自分がいるように思える。山は起伏が細かく、川はうねっている。地域を歩き回り、立体的な正確さを追求したのだろう。地元に暮らす人たちにとって、財産といえるものだ。

神戸但馬西播三木丹波ウクライナ侵攻
総合の最新
もっと見る
 

お知らせ