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「鹿ポスト」に搬入された野生鹿。猟師らは24時間、持ち込みできる=兵庫県多可町加美区豊部
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「鹿ポスト」に搬入された野生鹿。猟師らは24時間、持ち込みできる=兵庫県多可町加美区豊部
「カンビオ」で製造販売するドッグフードと後藤高広理事長=兵庫県多可町加美区豊部
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「カンビオ」で製造販売するドッグフードと後藤高広理事長=兵庫県多可町加美区豊部

 兵庫県多可町にある巨大な冷蔵庫。扉にステッカーが貼られている。「鹿ポスト」!? 驚きつつ庫内をのぞくと、仕留められた鹿が数頭。ジビエ(野生鳥獣の肉)のペットフードを製造する地元NPO法人「cambio(カンビオ)」が施設敷地内に設置している。実はこれ、狩猟者らが鹿を24時間、自由に搬入できる無人の独自システム。ハンターらの利便性を高めたことで持ち込み頭数は伸び、ドッグフードの売れ行きも好調という。獣害対策、鹿肉の有効活用、さらに行政の処理経費削減につながると、鹿ポストは県外からも注目されつつある。

■休日、夜間も搬入可能

 ポストは高さ約185センチ、幅約330センチ、奥行き約230センチ。スライド式の扉に鍵はなく、いつでも獲物を持ち込める。必要な作業は、伝票に日時や名前、捕獲地などを記入し、鹿の体に貼り付けるだけ。不正防止のため、搬入した車や人物は監視カメラで記録している。

 施設は2015年にオープンした。ポストの受け入れ時間は当初、スタッフのいる平日午前9時~午後5時だった。しかし、猟師たちから「早朝にも利用したい」などと要望があり、休日・夜間でも搬入でき、伝票やカメラを活用した鹿ポストを17年に考案。システム特許も取得した。今や鹿ポストは、地元猟師らになくてはならないものとなっている。

 多可町は町面積の約8割が山林の中山間地で、鳥獣による農業被害が大きい。ジビエの利活用などを目指し、町は12年に鹿肉の処理加工施設を設けた。しかし、食肉加工には血抜きした獲物を2時間以内に搬入するなど厳しい条件がある。生産量は少量にとどまり、18年から休止されている。

 鹿ポスト設置前は、捕獲した鹿は地中に埋めるか、焼却処分されることが多く、1頭当たりの焼却費約3万円は町が負担していた。町はカンビオに1頭5千円で受け入れてもらっており、経費は6分の1に。焼却数も激減した。

■ドッグフードに加工、廃棄減らす

 町内で捕獲される鹿は年間約400頭。うち6~8割が鹿ポストに搬入される。カンビオは伝票と映像を照合し、搬入数を集計する。そのデータを月末、町に送り、町は有害駆除の頭数管理やハンターに支払う報酬の参考にする。

 鹿肉はドッグフードにすれば、食用に比べ使用できる部位が多い▽猟師の手間が少ない-などさまざまなメリットがある。

 カンビオでは、地元産野菜とミックスした固形ドッグフードやドッグジャーキーなどに加工。「タシカ」のブランド名でネットや町内の施設で販売している。売りは国産・無添加。「愛犬家には、犬を家族のように思っている人も多い。安心できるドッグフードが求められている」と後藤高広理事長はほほ笑む。

 獣害対策に悩む県外の自治体も鹿ポストに注目している。愛媛県の宇和島市、鬼北町など4自治体は広域連携し、24年度に鹿肉と猪肉のペットフード加工施設を整備する計画だ。鹿ポストも参考に複数の冷凍庫を設置し、24時間獲物の受け入れを検討しているという。また兵庫県内では、香美町が捕獲したシカを一時冷凍保管する施設「ストックポイント」を町内2カ所に設けている。

   ◇   ◇

■増えるジビエ、兵庫県内は年215トン

 国内でジビエ(野生鳥獣の肉)の利用量が増えている。農林水産省の統計では、2021年度の利用量は過去最高の2127トン(前年度比17・5%増)。このうち、食肉用に販売されたのは1324トン(鹿肉947トン)で、ペットフードに加工されたのは656トンだった。

 調査が始まった16年度が1283トン。20年度は新型コロナウイルスの影響で外食需要が低迷し、販売量が1810トンに落ち込んだが、21年度は盛り返した。

 兵庫県内の利用量は215トンで、うち食肉販売の鹿肉は36トン。ペットフードは79トンとなっている。県鳥獣共生課によると、21年度に県内で捕獲された鹿は4万8763頭。うち約26%に当たる1万2918頭が利用された。

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