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サイズ別に手際よく仕分けする=姫路市的形町的形
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サイズ別に手際よく仕分けする=姫路市的形町的形
尾の青色が美しいクルマエビ=姫路市的形町的形
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尾の青色が美しいクルマエビ=姫路市的形町的形
クルマエビの仕掛けを引き揚げる中村哲さん=姫路市的形町的形
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クルマエビの仕掛けを引き揚げる中村哲さん=姫路市的形町的形
おがくずを詰めた箱に入れて生きたまま発送する=姫路市的形町的形
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おがくずを詰めた箱に入れて生きたまま発送する=姫路市的形町的形
海水の2倍の酸素濃度にした大きな養殖池=姫路市的形町的形
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海水の2倍の酸素濃度にした大きな養殖池=姫路市的形町的形

 年末年始の贈答やおせち料理に欠かせない縁起物といえば、ぷりっぷりのエビ。播磨灘に臨む兵庫県姫路市的形町の塩田跡で今、養殖クルマエビの出荷が最盛期を迎えている。昭和40年代まで塩作りの町だった的形では、時代とともに多くの製塩業者が養殖業へ転じていったというが、今も養殖を続けるのは「中村水産」1軒のみ。新年を前に出荷作業に追われる養殖場を取材した。

◆養殖場はかつての塩田

 12月上旬の朝、中村水産を訪ねると、社長の中村哲(さとし)さん(70)が、3千平方メートルもある養殖池の真ん中で、仕掛けを引き揚げていた。前日夜にイワシの切り身を入れ、池に沈めておいたかご。ずしりと重くなったかごの中で、数十匹のクルマエビが勢いよくはね回る。「しっぽが青色できれいやろ」と中村さんは笑う。

 同社は1969年、先代の中村幸三さんが創業した。鹿児島県で養殖技術を学び、79年には、単位面積あたりの生産量日本一になったという。

◆感覚頼りに選別「握っただけでわかるんや」

 養殖池から引き揚げたクルマエビは、いったん屋内にある水槽へ。中村さんは1匹ずつ手に取り、20グラム未満、20~25グラム、26~30グラムの3種類に仕分けする。その際、はかりは使わない。長年の経験から、手の感覚だけを頼りにリズミカルに選別していく。「53年もクルマエビと向き合ってたら握っただけでわかるんや」と胸を張る。

 気になる今年の出来は、やや小ぶり。餌代が高くなり、たっぷり餌を与えてやることが難しかった。「小さいエビやと売れへんやろうな。今年は赤字や」と落胆していたが、思わぬ高値が付いた。例年80匹3千円ほどが、今年は6千円で取引されているという。

 「こんなことは初めて。ほんまにびっくりした」と中村さん。昨年までは、サイズが大きいほど良い値が付いていただけに「むしろ小さいエビの方が、冷凍のおせちに使いやすいのかな」と首をかしげる。

 養殖のスタートは6月。今年は30万匹の稚魚を買い付けた。毎日欠かさず、朝昼晩と夜中に餌をやる。水温が下がると、クルマエビの活動量が減り、餌を食べなくなるため、食べ残しの量を確認しながら餌の量に気を配る。出荷までの半年間、その繰り返しだ。中村さんは「病気にならへんか、ごはんを食べてるか、とわが子を見守る思いで育てている」と目を細める。

◆おすすめは「やっぱり生」販路は北海道から九州まで

 同社の自慢は養殖池の酸素濃度の高さ。特殊な設備で、海水の2倍の酸素濃度を保っている。「酸素が多いと息がしやすく、クルマエビも元気になる。すると臭みも出ない」と話す。

 今年は、10万匹の出荷を見込む。おがくずを敷き詰めた箱に、生きたままのクルマエビを入れ、北は北海道から南は九州にまで発送する。日本を代表する東京の卸売市場・豊洲市場にも卸す。口コミや地道な売り込みで販路を広げてきた。

 中村さんに、おすすめの食べ方を聞いてみると「やっぱり生」。頭と尾、殻を取り、そのまま口に入れると、ねっとりとした甘さが口いっぱいに広がる。

 ただ、愛情を注いだ「わが子」だけに親心ものぞく。「人におすすめはするけど、僕はよう頭を取らんねん。かわいそうでね」

   ◇   ◇

■海水引く設備あり、養殖業に有効活用

 かつては製塩業で栄えた的形。なぜ、クルマエビの養殖が盛んになり、そして中村水産のみになったのか。

 的形の郷土史によると、1600年代前半に現在の的形町に塩田が開かれ、約64万平方メートルの塩田が広がっていた。1949(昭和24)年には的形だけで約900万トンの生産量を誇った。この頃から大規模化、企業化した「流下式塩田」が確立したという。しかし、全国的に生産過剰になり、70年代に製塩業は幕を下ろした。

 中村さんによると、職を失った製塩業者が、塩田を有効活用する手段として、クルマエビの養殖に目を付けたという。中村水産もその一つだった。

 「海水を引く設備もあり、塩田時代に海水をためていた池はエビを育てる池に使える。養殖業はピッタリやったんや」と話す。多くの製塩業者がクルマエビの養殖に事業を切り替え、80年頃には、約30の業者が養殖を手がけていた。塩田の有効活用に加え、乱獲によるクルマエビの減少で養殖エビの需要が高まっていたことも背景にあるという。

 クルマエビの病気のもとを除くため、抗生物質を使った養殖が主流になったが、効き目が薄れてエビが大量死する業者が続き、廃業が増えたという。中村さんは「的形の歴史を伝えるためにも『的形のクルマエビ』をつくり続けたい」と力を込める。

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