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全国盲学校弁論大会で優勝した高等部3年の浅井花音さん=神戸市立盲学校
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全国盲学校弁論大会で優勝した高等部3年の浅井花音さん=神戸市立盲学校
点字ブロックのある廊下を歩き、リュックを背負って下校する=神戸市立盲学校
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点字ブロックのある廊下を歩き、リュックを背負って下校する=神戸市立盲学校
点字教科書で勉強する浅井花音さん=神戸市立盲学校
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点字教科書で勉強する浅井花音さん=神戸市立盲学校
普通の教科書より何倍も分厚く、数冊に分かれた点字教科書=神戸市立盲学校
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普通の教科書より何倍も分厚く、数冊に分かれた点字教科書=神戸市立盲学校
五十音を6個の点で表した点字教科書=神戸市立盲学校
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五十音を6個の点で表した点字教科書=神戸市立盲学校

 大きなリュックいっぱいに点字教科書を詰め込み、白杖を突いて、バスと電車を乗り継ぐ。神戸市立盲学校高等部(神戸市中央区)3年の浅井花音さん(18)の毎朝の通学風景だ。一人での登下校だが「自分だけで頑張らなくてもいい」。3年前に病気で亡くなった母が、そう教えてくれた。今年10月に挑んだ全国盲学校弁論大会で見事に優勝した浅井さん。彼女が語った母への思い、そしてコロナ禍での学校生活-。

■容量30リットルのリュックで

 案内されて入った盲学校の廊下には、中央に点字ブロックが敷かれていた。「進め」を表す線状ブロックと、教室前で「止まれ」を表す点状ブロック。普通科で学ぶ3年生は、浅井さんを含めて2人だ。

 文字を拡大できるタブレット端末の教科書を使う生徒もいるが、生まれつき視覚に障害があり、ほぼ全盲の浅井さんは点字教科書で勉強する。点字はかな1文字を6個の点で表す。だから、通常の教科書よりずっとページが多い。

 「世界史の教科書なんて、13冊に分かれてるんですよ。予習や復習に必要な分だけ、毎日リュックに入れて持ち帰ります」。リュックの容量は30リットル。軽登山用とほぼ同じだそうだ。

 浅井さんは中等部のころから一人で通学する練習を始めた。歩行訓練の先生に付き添われ、まずは人通りの少ない下校時から。「そろそろ最寄り駅から自宅まで一人で帰ってみようか」と家族で話し合っていた2019年夏、母の文子さんが自宅で倒れた。

■母との早過ぎる別れ

 文子さんは人工透析を受け、松葉づえも欠かせなかったが、いつも明るく、優しかった。救急車で運ばれた翌日、そのまま帰らぬ人となったお母さん。48歳。早過ぎる別れだった。

 両親との3人暮らし。母がいなくなると、祖母やおばがご飯を用意しに来てくれたり、友人の母がおにぎりを持たせてくれたり。洗濯機の使い方は先生に教わった。家事援助のヘルパーにも頼った。

 「母がいない分、自分でしなければと焦ったが、そばにいてくれる人のありがたさに初めて気付いた」と振り返る。

 それから半年。高等部への進学を控え、下校訓練を再開しようとした矢先、新たな困難にぶつかった。2020年3月、新型コロナウイルスの国内感染が急拡大した。

■コロナ禍、触れなければならない苦悩

 高等部に入学して最初の3カ月は休校だった。先生が自宅前に置いてくれた課題プリントを、無料の「点字郵便物」としてポストから返送し、学習する日々。休校明けも苦労は続いた。点字教科書をはじめ、盲学校は手に触れる教材が多い。地球儀も盛り上がった地形を触りながら学ぶ。

 「非接触ではなかなか勉強できません。手も教材も手すりも、消毒、消毒、消毒でした」

 それでも、感染状況を見極めながら、街を歩く訓練を続け、一人で登下校するように。コロナ禍であっという間に過ぎた3年だったが、勉強のかいあって受験も乗り切り、春からは鍼灸師になるため県外の大学に進学するという。体の弱かった母を見て、「人の心や体を楽にできる仕事がしたい」と子どもの頃から抱いていた夢だ。

■母の教え、見つめ直したくて弁論大会へ

 卒業が近づき、弁論大会への出場を決めたのは、母が教えてくれたことをもう一度、見つめ直したかったら。生前の母が自分を支えてくれたことに触れ「私も誰かを支えられるようになりたい」と締めくくった発表は、本選に進んだ9人の中の最優秀に選ばれた。

 進学後は自宅を離れ、寮生活を送る予定だ。母はいつも「何かあった時、寄り添ってくれる人はいるんだよ」と言っていた。つらいことがあっても、その言葉を信じたい。そう思っている。

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