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天野大地さん(右)と草刈健太郎さん。その出会いが天野さんの人生を変えた=大阪市内
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天野大地さん(右)と草刈健太郎さん。その出会いが天野さんの人生を変えた=大阪市内
非行を繰り返して少年院に入った過去を振り返る天野大地さん=大阪市内
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非行を繰り返して少年院に入った過去を振り返る天野大地さん=大阪市内

 罪を犯して少年院に入り、出所後も社会になじめず、再び罪を犯す。そんな若者が後を絶たない。兵庫県加古川市の建設会社で働く天野大地さん(25)もその一人だった。16歳の夏、自宅に警察官が来て、逮捕された。容疑は窃盗、傷害、暴走行為…。罪悪感はなく、少年院を出て再び罪を犯した。だが、2度目の少年院での出会いが、更生の道につながった。

▼生後半年で母親が事件を

 天野さんの仕事は建物の塗装や、気密性と防水性を高めるためのコーキングなどが主で、真剣な表情で作業に汗を流す。丁寧な話し方と優しい笑顔から、その過去は想像できない。

 1997年生まれ。生後半年で母親が父親を刺殺する事件を起こし、物心つく前から兄とともに祖父母の家に預けられた。中学生時代は「朝が弱くて、サボり癖があった」。昼ごろに登校するようになり、2年生の夏には学校に行かなくなった。昼間は家にこもり、夜は出歩いて仲間たちと遊んだ。

▼けんかや窃盗、暴走が日常

 何とか卒業し、兄の勧めで夜間の工業高校に入学したが、1週間たらずで辞めてしまう。兄の建築関係の仕事を手伝いながら、夜遊びや非行を続ける日々だった。

 「両親がいないからとか、寂しいからとか、そんなんじゃない。ただ『こんなこともできるぞ』って自分をアピールしてただけ」

 仲間たちとバイクで暴走行為をしたり、他人のバイクから部品を盗んだり、けんかで相手にけがを負わせたり。それが日常だった。そして、逮捕された。

 留置場で事情を聴かれ、家裁の調査員には「君の母親は父親が女の人と歩いていただけで刺すような人だ。同じような人間になりたいのか」と問いただされた。母が父を刺した理由はこのとき初めて知った。

 「親は関係ないやろ」「これが逮捕か」「あーあ」。眠れない夜、頭に浮かぶのはそんなことばかりで、罪悪感はなかった。

▼身元引受人に来た母親は薬物を

 加古川市の少年院「播磨学園」で、半年間過ごすことが決まった。畑仕事や軽作業、更生に向けたセミナーを受ける日々で、ほとんど面識のなかった母親が身元引受人になるため面会に来た。

 「やっとお母さんと仲良くなれるかも」と、少し期待したが、現実は違った。母親は薬物を使っており、家では暴力も振るわれた。「やり返せば力では勝てたと思うけど、何をするか分からないし」と振り返る。

 兄と神戸に移り、2人暮らしを始めたが、兄に世話をされる立場にも窮屈さを感じ始め、再び堕落した日々が始まった。19歳の夏には祭りでけんかになり、止めに入った後輩を殴ったり、近くにあった物を壊したりして、また逮捕された。

 しかし、2度目の少年院では人生の転機となった出会いがあった。

▼自分のために怒ってくれる人

 鑑別所で出会った刑務官は、バイクや自動車をいじることが好きだという話を親身になって聞いてくれた。「東北に自動車整備士の勉強ができる少年院がある。そこに行ってみないか」と新たな道を示してくれた。

 別の刑務官は最初の少年院で担当だった。「どうせ自分のことなんて覚えてないだろう」と思っていると、「なぜ戻って来たのか」と激怒された。「こんなに自分のために怒ってくれる人がいるんか。しっかりしやな」。その瞬間、目が覚めた気がした。

 宮城県の少年院に行き、自動車整備の勉強に励んだ。前回より長く1年間を過ごすことになったが、試験を受ければ免許が取れる段階まで進んだ。そして、この間、最も大きな出会いがあった。

▼「人生で一番大きな言葉」

 少年院の院長の紹介で、草刈健太郎さんに出会った。大阪で建築会社を営みながら、更生支援の活動をしている。第一印象は「熱い人」。面談でこれまでの経過や思いを打ち明けると、こう返ってきた。

 「家族になろか。おまえの親になったる」

 涙があふれた。「人生で一番大きな言葉」だった。

 出所後は草刈さんの元で働き、逃げ出した時もあったが、草刈さんはいつでも優しく受け入れてくれた。こんな自分との縁を大切にし続けてくれていたことがうれしくて、再び仕事に励んだ。

 現在は兄の会社で働きながら、草刈さんの更生支援活動に参加し、自身と同じような境遇の人とともに、更生の道を歩む。

 「これでようやく恩返しできると思った。いつも親代わりで助けてくれた兄と、家族になってくれた草刈さんに」

▼約半数が10年以内に再入所

 法務省によると、刑務所や少年院の出所者の約半数が、10年以内に再入所している。更生の道を歩む中でも最も難しいとされるのは、就労と住宅だ。

 特に就労は、企業や雇用主が社内でのトラブルなどを警戒して出所者の採用を控える場合が多い。仕事に就けたとしても、周囲からの目や、社会人としての未熟さやマナーの欠如などによって長く続けられない人が多く、再犯の可能性が高まってしまう。

 草刈さんが参加する「職親プロジェクト」は、複数の民間企業が参加、連携して出所者の就労を支援する。少年院や刑務所を実際に訪れて面談する機会を設け、住居などの支援も行う。参加企業は全国で200以上に上り、国や自治体との連携も強めている。

 草刈さんは「確かに更生は難しくて、これまで何度も何度も裏切られてきた。それでも人間って変われる。その楽しさと感動でこれまで続けてきた」と話す。

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