小学校の授業は教科書を読むだけで理解でき、テストはいつも満点だった。だが、そんな自分に、周囲が境界線を引くのが分かった。だから、答案をわざと間違えた。学校には居場所がなかった。孤独だった－。

　昨年１１月下旬に開かれたオンラインイベントで、神戸大大学院で学ぶ土居綾美さん（２５）が知能が高く特定の能力が突出している「ギフテッド」としての経験を語った。「自己肯定感がズタボロで、ギリギリで生きてきた」という告白に、全国から参加した当事者や保護者ら約６０人から共感のコメントが集まった。

　自分が何者なのか、悩み苦しんだ日々を経て、土居さんは今、ギフテッドの当事者の会を主宰している。

■「目立たないこと」に必死

　ギフテッドとは「天からの贈り物（ギフト）」という意味があり、先天的な知的能力を持っていたり、高い精神性を備えていたりして、言語、数学、芸術などに突出した才能を持つ人のことをいう。

　土居さんは和歌山県で生まれ育った。保育園のころは、小学３年で習うローマ字表を自分で作り、パソコンのタイピングで遊ぶのに夢中になった。「ごっこ遊び」を楽しむ友だちを「それに意味があるの？」と、冷めた目で見ていた。

　小学校では、「あいうえお」から始まる学習が退屈だった。テストで満点を取り続けるうちに、それが良いことだと思えないようになっていく。一目置かれるということは、知らずと距離を取られるということでもあった。

　「目立たないこと」に必死になった。テストは２番目以降に提出する。わざと間違えて満点を取らない。授業では答えが分かっていても、手を上げない。だが、思わず答えをつぶやいてしまい、近くの席の子に「分かってるんだったら、手を上げたらいいのに」と嫌な顔をされたことも。

　同級生は皆、幼いように感じ、話も合わなかった。適応できるように周囲を観察し、相手に合わせた接し方や話し方を試した。「まるでカメレオンのようだった」。学校に、素の自分を出せる場所はなかった。帰宅し、ポロポロと泣いた日もあった。

　中学や高校では、「感覚で解けた」という数学にのめり込んだ。楽器を演奏するのも楽しかった。でも、教室で感じる同級生との違和感は相変わらずで、周囲とぶつかることもあった。

■「ギフテッド」私だけじゃなかった

　転機は高校３年の時だった。テレビの特集番組で、ギフテッドという言葉を知った。「これだ」。自分が何者か、やっと分かった気がした。それに、「私だけじゃない」と安心した。

　動物の研究を志していたが、理系から文系への転進を決意した。神戸大、同大学院では、ギフテッドや人間の葛藤、現代社会の特殊性などをテーマに学びを深めてきた。約２年前からは当事者会「Ｃｏ－Ｒｉｎｇ（コーリング）」を主宰する。

　昨年、就職活動に取り組む中で、自分が本当にやりたいこと、自分だからできることを考えた。当事者会を運営する中で、かつての自分のように生きづらさを抱えている子どもたちへのサービスの必要性を感じていた。

　その一つが、オンラインでの「メンター家庭教師」だ。学習支援とともに、相談相手として伴走する。既に関東や九州の小学生、高校生の５人とつながっている。就職は見送り、今春から自宅を拠点に取り組むことに決めた。

　社会も少しずつ変わってきた。米国などに比べ、日本は取り組みが遅いといわれるが、文部科学省は２０２１年、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」への対応を話し合う有識者会議を設置。２３年度から、多様な学びやサポート体制づくりに乗り出す予定だ。

　かつて「どうして私はストライクゾーンに入らないんだろう」と悩んだ土居さんが願うのは、「はみ出してもいい。のびのびと過ごせる社会」。そのための挑戦が始まる。