昨年発足３０年を迎えた認定ＮＰＯ法人「ウィメンズネット・こうべ」（神戸市中央区）。ＤＶ、セクハラ、出産や子育てへの無理解などさまざまな困難に直面する女性に寄り添い続けてきた。次の節目を目指す同ネットの代表理事正井礼子さん（７３）に、積み重ねてきた歩みや、今後の展望などを聞いた。

　同ネットは１９９２年、それまでなかった兵庫県の女性センターを作ろうと、発起人で神戸市出身の正井さんの呼びかけで集まった女性グループが発足させた。

　正井さんは当時をこう振り返る。

　「女性が生き方に困った時の情報や、支援する団体もなかった。女性たちをサポートし、男女平等の社会に変えようと立ち上がった」

　９４年には１人で悩みを抱える女性たちが集えるよう「女たちの家」を神戸市内に開設する。西日本各地から問い合わせが舞い込み、ＤＶ相談も増えた。さまざまな境遇の女性が駆け込むようになり、シェルター（緊急避難施設）の役割も持つようになる。

■阪神・淡路が転換点

　活動の転換点になったのが９５年の阪神・淡路大震災だ。入居していた家屋が倒壊し、「女たちの家」は閉鎖を余儀なくされる。一方で「女性支援ネットワーク」を立ち上げ、電話相談やセミナー、避難所での支援などに取り組んだ。

　避難所では、性犯罪やハラスメントもあった。避難生活で世話を焼いてくれた高齢男性から性被害を受けた女性は、避難所が閉鎖的な空間であるがゆえに思い悩み、警察にも相談できずにいたという。

　「『悔しかった』と涙を流す女性を見て、苦しくなった。こんなことは二度とあってはならないと思い、啓発を続けてきた」

　２００１年にＤＶ防止法が施行されると、同ネットもＤＶ被害の電話相談を始める。０４年には母子のためのシェルターを設け、以来延べ４６５人（４１２世帯）が利用。しかし、やがてシェルターの限界も見えてきたという。

　「経済的に自立できずシェルターから自宅に戻ったり、生活保護を受けるのをためらい、健康や安全を犠牲にして働いたりする女性を多く見てきた。シェルターが一時的な助けにしかならず、女性を取り巻く最大の問題は貧困と孤立だと改めて気付いた」

　この経験を基に、１３年に開設した「ＷＡＣＣＡ（わっか）」は、母子を継続的に支援する施設だ。就労や資格取得に向けたアドバイスをしたり、食料を無償で提供したり、学習支援したりと、多方面からサポートする。

■夢の共同住宅を

　この３０年で女性を巡る環境は変化を遂げた。「＃Ｍｅ　Ｔｏｏ（ミートゥー）」など、自分から声を上げる女性も増えている。だが、男性本位の価値観は今なお社会に根深く、女性にとって厳しい状況はなくならない。

　今年、同ネットは、かねて温めていた「夢」を形にすべく一歩を踏み出す。困難を抱える女性や母子を受け入れ、最終的な自立を支援する共同住宅「六甲ウィメンズハウス」（神戸市灘区）。公益財団法人「神戸学生青年センター」との共同事業で、２４年春の入居開始を目指し、本年中に建物の改修工事に着手する予定だ。資金の不足分については現在、寄付を募っている。

　「ウィメンズハウスは、本当の意味での自立を目指す理想の場所。大事なのは、女性がいざという時に頼ることができる緩やかなネットワークで、これからもそんな団体であり続けたい」

　正井さんはこう力を込めた。

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■ひと続きで支える団体、他にない　「ウィメンズネット・こうべ」の活動に詳しい関西大社会学部の吉岡洋子教授（地域福祉論など）の話

　取り組みは、電話相談からシェルター運営、その後の居住、就労支援にまで及んでおり、これほどひと続きで支えてくれる団体は他になく、先駆的だ。ＤＶ被害などで困難を抱える母子が理解されず、孤立するケースが今なお目につく。社会的養護に頼るほどではない、その手前にいる母子を支援する制度が日本では限られている。ウィメンズネット・こうべはそんな人たちに寄り添い続けてきた。いつまでも、女性が頼れる存在であり続けてもらいたい。