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多数のシカが現れたグラウンド脇の斜面=昨年7月15日(提供)
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多数のシカが現れたグラウンド脇の斜面=昨年7月15日(提供)
夢が丘中学校に設置されたシカよけの超音波スピーカー。斎藤元彦知事(左端)も視察に訪れた=昨年11月下旬、兵庫県新温泉町細田
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夢が丘中学校に設置されたシカよけの超音波スピーカー。斎藤元彦知事(左端)も視察に訪れた=昨年11月下旬、兵庫県新温泉町細田
文字起こしアプリを使った実験で、窓口の市民に対応する三木市職員(左)=昨年12月、三木市役所
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文字起こしアプリを使った実験で、窓口の市民に対応する三木市職員(左)=昨年12月、三木市役所

 テクノロジーを駆使して地域課題を解決に導く「シビックテック」の試みが、兵庫県内で花開きつつある。害獣が嫌う超音波でふん害が激減し、高精度の文字起こしアプリは聴覚障害者に好評だ。ビジネスの可能性を探る民間企業と、人手が足りない行政の連携は社会に革新を巻き起こせるか。

■超音波でシカ撃退

 兵庫県北部の湯村温泉に近い新温泉町立夢が丘中学校は、1年以上前に出没し始めたシカに悩まされていた。グラウンド脇の山の斜面から群れで現れ、プランターの植物まで食べ尽くす。校舎敷地にはふんが散在した。教職員は出勤時の掃除が日課になり、多い日は7キロ近い量に達した。

 柵を設けても効果がなかったが、昨年10月を機にふん害は劇的に減った。電子機器製造メーカー「イーマキーナ」(神戸市灘区)が開発した超音波装置を山に向けて設置。1日平均1キロだったふんの量は半月後にはわずか50グラムとなった。

 食品工場などで使うネズミよけ装置の周波数や音圧を調整し、人間には聞こえないが「シカには車のクラクション並みの音」を実現した。田中千尋校長(57)は「格段の効果。教職員の負担が減り、衛生面で生徒に安心感が生まれた」と話す。

■商機探る民間、行政と連携

 同校での取り組みは、県が2022年度に始めた新事業「ひょうごTECH(テック)イノベーションプロジェクト」の一環だ。市町などから地域の課題を募り、解決策を提案できる企業とマッチング。半年ほど実証実験に臨み、民間の事業展開を後押しする。

 3年前、東京都が新型コロナウイルスの感染情報サイトのデータとプログラムを公開し、外部の民間エンジニアがこぞって手を加えて改善、転用した。これまでの行政手法と一線を画した手法は、市民(シビック)とテクノロジーがかけ合わされた造語「シビックテック」と呼ばれて有効性が広まり、県も追随した。

 イーマキーナの藤井誠社長(53)によると、業界では「シカに超音波は効かない」と認識されていた。「実験の機会を与えられ、手応えを感じられた」。シカ対策で使った屋外用スピーカーは製品化を予定する。

■窓口の会話、瞬時に文字化

 同プロジェクトで進行中の実証実験は他に5件。そのうち、三木市が要望した「聴覚障害者のコミュニケーション支援」には、東京のIT企業「時空テクノロジーズ」が参画した。

 新型コロナウイルス対策でマスクの着用が求められ、さまざまな窓口に飛沫(ひまつ)防止用パネルが置かれた。だが、聴覚障害者は相手のマスクで読唇ができず、パネルの影響で声も聞き取りにくくなっていた。

 同社は文字起こしアプリに活用する人工知能(AI)と録音機能の品質を追求し、会話を高精度かつリアルタイムで再現。昨年12月に三木市役所であった実験では、職員と人工内耳を使う市民の民岡佳子さん(75)がアプリで会話を試みた。スムーズなやりとりに民岡さんは「内容がすぐ分かって便利。早く窓口に置いてほしい」と満足げだった。

 最高経営責任者(CEO)の橋本善久さん(49)は、ゲームソフト大手「スクウェア・エニックス」で最高技術責任者(CTO)を務め、約4年前に起業。「行政との連携は本物の課題に向き合え、社会的信用も得られる」。将来的には空港や医療現場などでアプリの普及を目指す考えだ。

 県の担当者は「行政だけでは対応できない問題で、解決の糸口が見えるようになった。地域の課題がビジネスチャンスになると認識されれば、関わる全ての人にメリットをもたらすはず」と期待を寄せている。

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