二宮和也さん主演の映画「ラーゲリより愛を込めて」が公開され、物語のテーマとなった第２次大戦後のシベリア抑留に注目が集まっている。京都府舞鶴市にある引き揚げ者の記念館には、遺品を寄贈したいとの相談が相次ぎ、最も多いのは手作りのスプーンだという。

　コップ、ライター、たばこ入れ、マージャンパイ、将棋の駒…。舞鶴引揚記念館には、シベリアで抑留生活を送った人たちが持ち帰り、保管していた物品が収蔵、展示されている。

　抑留中に手作りしたとされる一点物が目立ち、スプーンは２００点超に上る。木を削り出したもの、アルミなどの金属をたたいて磨いたものなど、素材も形状もさまざまだ。

　抑留者の大半は「ラーゲリ」と呼ばれた収容施設で、少量のおかゆやパン、塩水のようなスープで命をつないだとされる。

　記念館の長嶺睦（むつみ）学芸員は、食に対する欲求の強さからスプーンが作られた可能性を指摘する一方、抑留者の体験談などから「いつ帰国できるか、先の見えない抑留生活でものづくりに楽しみを見いだしていた」との見方も示す。

　強制労働を課され、娯楽もない日々において、削ったり磨いたり少しずつ形を整える工程が救いだった－との説明だ。スプーンなど普段使いできるものが多いが、手作りできれば良かったとみられる。

　記念館の収蔵品には、底面に「うさはらし」の文字が刻まれたたばこ入れがある。「完成したら自分の財産ができたように思えた」という抑留者の証言も残っており、帰国後も使い続けた人がいたという。

　終戦から７７年が過ぎ、抑留経験者は少なくなっているが、記念館には親族らからの遺品寄贈の問い合わせが週１～２件寄せられる。長嶺学芸員は「過酷な寒さや飢え、労働など、抑留者の置かれた環境が、人間らしい生活からいかにかけ離れていたかを伝える貴重な資料だ」と指摘する。

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　ラーゲリより愛を込めては、旧ソ連によってシベリアに抑留された男性と日本で帰国を待つ妻のストーリーで、昨年１２月に全国東宝系で公開された。二宮さんのほか、神戸市出身の俳優北川景子さんらが出演。兵庫県内では、ＯＳシネマズミント神戸などで上映している。

【シベリア抑留】第２次大戦終結間際、旧ソ連は日本との中立条約を破って参戦し、日本の支配下にあった満州（現中国東北部）などにいた日本人を連行した。日本政府の調査では、約５７万５千人が、シベリアを中心に中央アジアやモンゴルなどの収容所で、鉄道建設や農作業などさまざまな強制労働に従事させられ、約５万５千人が死亡した。生還者は１９４６～５６年に帰国し、約８割が舞鶴港を経由したとされる。

■ライター、たばこ入れ…舞鶴引揚記念館に寄贈続々、神戸の遺族「伯父の生きざま残したい」

　シベリア抑留体験者のゆかりの品を収める舞鶴引揚記念館。５年前、伯父のライターなど４点を寄贈した神戸市西区の柴田順一さん（７４）は「伯父の生きざまを残すには、個人が所有し続けるのではなく、施設で活用してもらった方がいいと考えた」と話す。

　伯父俊一さんは戦前、満州（現中国東北部）でガラス工場を営んでおり、旧ソ連軍に連行されて３年ほど抑留生活を送った。帰国後は、大阪で再びガラス工場を経営。柴田さんが幼い頃は、俊一さんの家に預けられ、仕事で忙しい父と入院していた母に代わって面倒を見てもらったという。

　俊一さんが１９８７年に亡くなると、子どもがいなかったこともあり、遺品のオイルライターとたばこ入れを柴田さんが引き取った。俊一さんが抑留中に手作りしたもので、収容施設に母から送られてきたはがき２枚も見つかった。

　思い出として大切に保管していたが「伯父を知らない世代にとっては、単なる『遺品』となる。僕は伯父に世話になり、人となりに触れたからこそ価値が分かる」と、より多くの人が目にできる場所への寄贈を決めたという。