兵庫県朝来市にある大植病院の中村洪一医師=精神科=は、担当する患者を効率良く治療しようと、独自の工夫で人工知能(AI)を診察に取り入れてきた。その取り組みを知った北海道大病院(札幌市)のグループが声をかけ、AIを使った診断システムを共同で開発。大腸内視鏡(大腸カメラ)の検査前処置に関するシステムで、スタッフの負担が大きく軽減されるという。もともと交流のなかった両者が、こうした経緯をたどって新たな医療技術を生み出すのは異例。中村医師は「とても光栄」と喜ぶ。
■新聞記事がきっかけ
大腸の内視鏡検査は、腸内に便などが残っていると粘膜の細部の撮影が困難になるため、検査前に腸内を空っぽにする必要がある。検査を受ける人は当日、下剤を服用し何度か排せつ。便がほぼ透明になるのを看護師らが確認してから検査に移る。看護師らの負担は大きいといい、北大病院光学医療診療部の小野尚子准教授は作業の効率化を模索していた。
一方、中村医師が勤める大植病院は、認知症などの高齢患者が多く入院する。2019年、患者の床ずれを撮影し、その画像からAIに重症度を判定させるシステムを開発して診療に生かしていた。
インターネットで、その実践を伝える神戸新聞記事を偶然、小野准教授が目に留めた。大腸カメラ前処置に応用すれば、患者も簡単に使え作業も効率化できると考え、中村医師に連絡を取って相談を持ちかけた。
中村医師は消化器科系の勤務経験があり、小野准教授の意図をすぐ理解して快諾。昨年春から画像をAIに学習させる実験を繰り返して精度を上げ、ほぼ半年をかけて完成させた。
■便の画像で判定
新たなシステムは、受検者がスマホのカメラで自身の便を撮影し、LINE(ライン)で送信。AIが画像から前処置の「完了」「未完了」を数秒で判定、返信する仕組みだ。
看護師は時間、労力が軽減でき、トイレで受検者と接する機会が減るため、新型コロナウイルスの感染予防にもなる。患者にとっても、自分の便を見られる心理的負担がなくなる。
北大病院は今後、実用化に向け、病院での共同研究を予定する。「AIは医師が診断の補助で利用することはあるが、患者さんも使える便利な技術ができた。中村さんの協力に感謝している」と小野准教授。
中村医師は、このシステムが実用化されれば、大腸カメラによるがん検診の促進にもなると期待。「大学病院との共同研究は初めてで驚いたが、町の病院の取り組みが評価されてうれしい」と話す。
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