小中学校９年間の義務教育を一貫して行う「義務教育学校」が増えている。兵庫県内では２０１６年、神戸・ポートアイランドに開校した港島学園を皮切りに、現在は７校。今年４月には神戸市内に２校目が誕生する。中学進学時にいじめや不登校が増える「中１ギャップ」の解消が主眼とされるが、少子化が進む近年は、「地域に学校を残したい」という住民の願いが、小中学校の統合を後押しする事例もある。

　西宮市の臨海部に立つ校舎に、歓声が響く。市立総合教育センター付属西宮浜義務教育学校で昨年１１月末、縦割り交流行事「マリナフレンズ」が開かれた。

　同校は２０年、西宮浜小学校と西宮浜中学校が統合して誕生した。小学校相当の前期課程（１～６年）に２２０人、中学校相当の後期課程（７～９年）に２１６人が通う。この日は全校生が１５班に分かれ、中学３年にあたる９年生が企画したレクリエーションに取り組んだ。

　「椅子運ぼう」。後期課程の生徒が、低学年の児童に優しく声をかける。一生懸命ジェスチャーゲームに取り組む後輩たちの姿に、「かわいいなあ」と笑みがこぼれた。

　当初は１学期に開く予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期に。ようやく開催にこぎ着けて、９年の女子生徒（１５）は「小学生と触れあうのは新鮮。楽しんでくれているのを見てうれしかった」と顔をほころばせた。

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　義務教育学校は１６年度に制度化され、文部科学省のまとめによると、初年度には港島学園など全国で公立２２校が設置された。その後も右肩上がりに増え、２２年度には国公立で１７７校となっている。

　９年間を通じて子どもの成長を見守ることができるのが利点だ。西宮浜義務教育学校の清水孝茂校長は「後期課程に入る前から、教員も子どもたちもお互いの様子が分かることが一番大きい。教員が各学年の様子を肌で感じられることで、後期課程に入ってもスムーズに指導できる」と語る。

　「６・３」制の学年の区切りを「４・３・２」「５・４」とするなど、柔軟にカリキュラムを編成できる点も特徴の一つ。西宮浜では５、６年生に後期課程と同じ５０分授業を導入し、勉強面でのギャップを減らす試みを取り入れている。

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　神戸市北区八多町。のどかな田園風景の中に、八多小学校と八多中学校はある。同じ敷地内に並んで立つ２校は今春、義務教育学校八多学園（仮称）として新たなスタートを切る。

　統合には地元住民の願いが詰まる。八多小校区内には新興住宅地があるが、同校からは遠く、市の制度を利用して近くの鹿の子台小に通う子が多い。八多小は児童減が続いていた。

　「学校はまちづくりの核の一つ」。住民らは約１０年前から、神戸市に少子化対策などを要望してきた。開校が決まると「ようやく市教委に思いが届いた」と、喜ぶ声が上がったという。

　新しい学校では、市内初となる「４・３・２」制のカリキュラムを導入する。八多小の小原耕司校長は「新しい学校に対する地域の期待は大きい」と語る。

■校名や制服…開設に尽きぬ悩み「地域の理解や連携必要」

　６歳から１５歳まで、幅広い年代の子どもが通う義務教育学校。開設には細かくとも難しい悩みが伴う。

　八多小と八多中は、制服をどうするかで苦労した。小５、６と中１にあたる中期課程の５～７年は校舎の同じ階で学ぶことになるが「７年生だけ制服を着るのはどうか」との指摘があったという。

　「５年生から制服を着た方がピシッとする」という意見も出た。しかし５年から９年まで、成長期の５年間を制服にすると買い換えが必要となり、保護者の負担が増す。検討の末、７年生からの着用が決まった。

　一方、西宮浜義務教育学校の場合は、学校名を巡り議論が起きた。

　事前に公募した候補の中から決めることにしていたが、西宮市教委は当初「マリナ学園」を有力視していたという。「西宮浜にはマリナパークシティがあるので親しみやすいし、覚えやすくていいなと思っていた」と担当者は振り返る。

　しかし保護者から「将来子どもが履歴書に書くときのために、どっしりとした名前にしてほしい」「マリナ学園は私立校をイメージするのでは」といった意見が相次ぎ、現校名に。開校から間もなく３年、校名も地域になじんできたといい、担当者は「学校がうまくいくには、何より地域の理解や連携が必要。これからも要望をくみ上げながら進めていきたい」と語った。