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「バインミーシンチャオ」のヌックマム漬け豚肉バインミー=神戸市中央区北長狭通3
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「バインミーシンチャオ」のヌックマム漬け豚肉バインミー=神戸市中央区北長狭通3
「バインミーシンチャオ神戸店」の立ち上げメンバー。右端がブイ・タン・ユイ社長=2020年6月、神戸市兵庫区新開地4(提供)
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「バインミーシンチャオ神戸店」の立ち上げメンバー。右端がブイ・タン・ユイ社長=2020年6月、神戸市兵庫区新開地4(提供)
「サイゴンチュンハイ」のチャーシューバインミー=神戸市長田区久保町4
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「サイゴンチュンハイ」のチャーシューバインミー=神戸市長田区久保町4
「バインミー83」のチャーシューバインミー=神戸市中央区元町通6
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「バインミー83」のチャーシューバインミー=神戸市中央区元町通6

 ベトナムのサンドイッチ「バインミー」の人気が日本で高まっている。在日ベトナム人の増加と、新型コロナウイルス禍による出前やテイクアウトの需要増を受け、専門店やキッチンカーが増えている。パンに具材を挟むのは各店とも共通だが、使う食材や味は多種多様。神戸市内各地の店舗を訪ねると、店を立ち上げたオーナーたちのバインミーを巡る“物語”もさまざま味わいに満ちていた。(文末に店舗情報のメモ)

 ベトナム版バゲットサンドのバインミーは、フランスの植民地時代に作りだされたといわれ、現地では屋台で手軽に食べられる定番食として親しまれている。

 バゲットに鶏肉のパテを塗り、ダイコンやニンジンのなます、パクチーなどのハーブ、肉を挟むのが一般的だが、本国の地域によって味付けなども異なるという。

◇故郷の味で全国制覇を

 全国に十数店舗を展開する「バインミーシンチャオ」は、神戸市内に2店舗を構える。社長を務めるブイ・タン・ユイさん(36)はバインミーの本場といわれる中部・ホイアンの出身。幼い頃から日本のマンガが好きで、2007年に日本語を学ぶため来日した。

 大学を卒業後、技能実習生の翻訳といった仕事を経て、16年に1号店を東京・高田馬場に出店。当時、日本でバインミーの知名度は低かったが、故郷の味を求める在日ベトナム人が絶えず訪れ、テレビや雑誌にも取り上げられたことで客入りは上々。20年には2号店を東京・浅草に構えた。

 3号店の地に選んだのが神戸市兵庫区の新開地だった。「調査すると新開地周辺がベトナム人の集住地域で、住宅街も近いことから売れると思った」とユイさん。4号店も神戸で、同市中央区のJR三ノ宮駅高架下の「三宮高架商店街」(ピアザ神戸)に出店した。

 2店とも新型コロナ下で開店し大きく打撃を受けた時期もあったが、「テイクアウトやデリバリーのニーズが高まり、徐々に観光客も戻ってきた。多いときは新開地の神戸店で1日150個ほど売れる」という。

 「ホイアンは世界一のバインミーが味わえる場所。現地の味を知ってもらえたらうれしい」とユイさん。日本人の舌に合わせて手を加えることはせず、現地の味を忠実に再現している。「野菜がたくさん入ってヘルシーで、食べやすいところが日本人に気に入ってもらえたのでは」と話す。

 最近では、関東地方でイトーヨーカ堂と提携し、スーパー内にキッチンカーを出張させる取り組みも。「いつかは全ての都道府県に味をお届けしたい。バインミーの味を通してベトナム文化を知ってほしい」と夢を抱く。

◇思い出の「母の味」継承

 「ベトナム料理は味があっさりしている、というイメージを打ち消したい」と話すのは、同市長田区にある「サイゴンチュンハイ」店主の石田長海(ながうみ)さん(36)。ベトナム人の両親の下、日本で生まれ長田区で育った。

 長田区はベトナム戦争後、難民の「ボートピープル」として来日したベトナム人が多く住み、現在も市内のベトナム人の約2割が居住する。ベトナム料理のレストランも多い激戦区だ。

 石田さんの店は20年4月にオープン。母の生まれ故郷、南ベトナムの味を伝える。「南部は甘口でしっかり濃い味が特徴。北部のシンプルな味と混同している日本人も多い」と話す。

 石田さんにとってバインミーは小さい頃、母がおやつ代わりに作ってくれた思い出の味。普段は塩こしょうで味付けしたハムというシンプルな具材だったが、週末になると、丁寧に仕上げたレバーのパテと、いっぱいの野菜を挟んだバインミーを来客に振る舞った。

 店では母の味と同様、臭みのないレバーパテや食べ応えのあるチャーシューにこだわる。バゲットは地元の老舗パン店「ホルス」に何度も掛け合い、サクッと軽い生地を追求。さらに通常は厚みが出るバゲットの中央部が均一になるよう依頼した。最初から最後までバランス良く、飽きずに食べてもらうための工夫だ。

 バインミーを通じてベトナム料理の認知度が高まるのを「いいこと」と喜ぶと同時に、「バインミーもバックボーンがある料理。ベトナムの食文化を知ってほしい」と話し、ベトナムの文化などをユーチューブで発信することも計画する。

◇旅先の一口で魅せられ

 同市中央区にある「バインミー83」店主の岸本紀子さんは約15年前、旅で訪れたベトナムでバインミーと出合った。庶民的な路面店にミニバイクで乗りつけたおじさんたちが次々とテイクアウトしていく。興味を抱き一口食べたところ、「エスニックな具材のお総菜を食べているように斬新で、パンだけど欧米な感じがしない。衝撃的だった」。

 帰国後、日本で食べられる店を探したが、硬めのハード系のパンで作られたものが多く、旅先で魅せられた味とは違っていた。「ならば自分で作ればいい」とベトナム料理教室に通ったり、旅先の欧米でもベトナム人移民街でバインミーを食べたりと研究を重ねた。

 念願の店は19年、元町高架通商店街(通称・モトコー)にオープン。「団塊ジュニアの年齢で自分の店を持つなんて、大きな決断だった」と振り返る。

 思い出の味に近づけようと、柔らかいバゲットを使用。風味豊かなチャーシュー、歯応えが楽しめるよう大きめに切ったダイコンとニンジンのなますなどが特徴だ。2022年3月に元町6丁目商店街に移転した。

 「カジュアルさ、手軽感がバインミーの魅力」と岸本さん。「ここ数年でベトナムの食材を扱う店も増え助かっている。トルコのケバブくらい、なじみのあるフードとして広まれば」と力を込める。

 〈メモ〉

■バインミーシンチャオ神戸店 神戸市兵庫区新開地4-3-1(午前10時~午後9時、定休日なし。TEL078・955・9549)

■バインミーシンチャオ三ノ宮店 神戸市中央区北長狭通3-30-74(午前11時~午後9時。定休日なし。TEL078・599・7569)

■サイゴンチュンハイ 神戸市長田区久保町4-3-7(午前11時~午後2時、午後5~8時、木曜定休。TEL078・797・5195)

■バインミー83 神戸市中央区元町通6-5-14(正午~午後6時。売り切れ次第閉店。インスタグラムで営業日を公開している。事前に電話で注文も受け付ける。TEL070・2685・3064)

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