2003年に神戸市須磨区横尾6の路上でパート従業員の寺田和子さん=当時(44)=が刺殺された事件は、21日で発生から20年となる。妻の命を奪った犯人への怒りを抱き続け、事件後の歳月を歩んできた寺田さんの夫(65)は語る。「犯人を捕まえたい。でも、もう罪にさいなまれてどこかで死んでいてくれという気持ちもある」
2人は寺田さんが大学生の時に夫の職場で出会った。結婚後、長男と次男が生まれた。家族で訪れた六甲山牧場(神戸市灘区)では羊に弁当を取られそうになったこともあった。「みんなで弁当を守ってな。子どもは泣くし」。牧場での家族写真を手に振り返った。
しかし、そんな家族の思い出は、凶行によって突然断ち切られた。
事件後、夫には二つの時間軸ができた。一つは止まったままの妻との時間。もう一つは成長する子や変わっていく社会。妻を奪われた後、家族3人で協力しながら暮らしてきた。当時小学生だった次男の遠足に「ひもじい思いをさせたらあかん」と、苦手な料理に挑み、徹夜してエビフライをこしらえたこともあった。
一日も早く犯人を捕まえたい。事件から10カ月後、1万枚のビラを自費で印刷し、現場近くの市営地下鉄妙法寺駅前で情報提供を呼びかけた。ビラの自費配布はその後も続け、現場近くと妙法寺駅前には自ら看板も設置した。7年後には私的懸賞金も設けた。「もう意地やった。世間は忘れてるんちゃうか、まだ逮捕されてないで、と」
なぜ、妻は命を奪われなければならなかったのか。怒りをぶつけるように、犯罪被害者遺族を取り巻く状況の改善にも力を注いだ。全国犯罪被害者の会(あすの会)に加わり、犯罪被害者等基本法成立を求める署名活動などに取り組んだ。「妻の事件の犯人に怒りを向けられない分、同じ被害者遺族のことで怒っていた。この活動がなければ、ずっとたまったままやった」と打ち明ける。
事件現場を今も通ることがある。その度に怒りを確かめる。一方で、逮捕され、殺人罪に問われても一定年数の刑期を終えれば社会復帰できる現実もこれまで見てきた。「ならば、いっそのことひっそりと死んでいてくれ」。そう思うこともある。
事件発生当時は「逮捕後に現場検証に来た犯人に石を投げたい」と思ったこともあった。憎しみが消えることはない。でも「もう今はその体力もない。年齢も過ぎた」と語る。
どんな情報でもいいので寄せてほしい。19日午前、妙法寺駅前で夫は、情報提供を呼びかけてビラを配った。年数を重ねるごとに事件のことを知らない人が増えた。自らの思いも複雑に入り交じる。しかし、時が過ぎたからこそ強くなる期待もある。
「今なら『あいつが犯人』と通報してくれるかもしれへん。犯人には『逃げ隠れする人生で後悔はないのか』と問いかけたい」
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