第2次世界大戦中の欧州で、ナチスドイツの迫害を「命のビザ」によって逃れ、神戸に滞在したユダヤ難民の男性が、82年ぶりに来日した。25日には、当時の面影を残す中央区・北野地区を訪れ、集まった地域住民らを前に「ずっと『ありがとう』と言いたかった」と笑顔を見せた。
■「穏やかで幸福な時間だった」
男性は、ポーランド出身で、現在はオーストラリアで暮らすマルセル・ウェイランドさん(95)。
1939年、ドイツが祖国に侵攻し、家族とともに隣国リトアニアへ逃れた。現地にいた日本の外交官、杉原千畝氏は、同じような境遇のユダヤ難民数千人に対し、独断で日本通過ビザを発給。このビザによって救われた一人が、ウェイランドさんだった。
旧ソ連のウラジオストクから福井県の敦賀港を経由し、41年にユダヤ人コミュニティーがあった神戸へ。当時、ウェイランドさんは14歳。大丸百貨店で焼きそばを食べたり、宝塚で歌劇を鑑賞したり。神戸で過ごした約7カ月間を「穏やかで幸福な時間だった」と振り返る。
■石垣に触れ「エモーショナル」
その後、中国を経由して46年にオーストラリアへ渡った。建築関係の仕事に就き、現在はシドニーで孫2人と暮らす。今回の来日は、東京であった命のビザの企画展に合わせて招かれたのがきっかけで、神戸にも立ち寄った。
24日に神戸市役所を表敬し、25日は北野地区の学校法人「コンピュータ総合学園」を訪問。敷地内には、ユダヤ難民救済の活動拠点だった「神戸ジューコム」の石垣がいまも残る。ウェイランドさんは、右手で触れると、一言「エモーショナル」とつぶやき、左胸に手を当てて日本語で「ありがとう」と繰り返した。
その後、地域住民らが出席した交流会にも参加し、24日の夕食は三宮で焼きそばを食べたと明かした。「とてもおいしかったが、82年前と同じ味だったかどうかは分からない」と話し、会場を笑いに包んだ。
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