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亡くなった娘の松村幸姫さんが倒れていた事故現場で、事件記録が廃棄された憤りを語る中江美則さん=京都府亀岡市
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亡くなった娘の松村幸姫さんが倒れていた事故現場で、事件記録が廃棄された憤りを語る中江美則さん=京都府亀岡市
亡くなった娘の松村幸姫さんが倒れていた事故現場で、事件記録が廃棄された憤りを語る中江美則さん=京都府亀岡市
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亡くなった娘の松村幸姫さんが倒れていた事故現場で、事件記録が廃棄された憤りを語る中江美則さん=京都府亀岡市

 記録の廃棄を知ったのは、事故から丸10年となる年だった。京都府亀岡市で2012年4月23日、無免許の元少年=当時(18)=が居眠り運転で集団登校する児童の列に突っ込み、胎児を含む4人が死亡、7人が重軽傷を負った事故。娘の登校に付き添っていた松村幸姫さん=同(26)=は、妊娠7カ月のおなかの子とともに命を奪われた。松村さんの父、中江美則さん(59)は「裁判所は、娘の叫び、無念、怒りが詰まったあの記録を、ごみ同然に捨てた」と憤る。

 午前8時ごろ、集落内の抜け道で、少年が運転する軽乗用車は、列の最後尾を歩いていた松村さんをひき、児童を次々にはねた。孫娘も重傷を負った。中江さんらは、罰則の重い危険運転致死傷罪の適用を求め、20万人以上の署名を京都地検に出した。

 「痛かったやろな、怖かったやろな」。娘が倒れていたという花壇跡の土をなで、中江さんは宙を見つめる。意識不明の娘と病院で対面した際、ベッドに花びらが落ちていた。背中にはタイヤ痕がついていた。「冗談好きのおおらかな子でね」。中江さんは、月命日に必ず現場へ足を運ぶ。

 街頭で危険運転致死傷罪の適用を求めた署名活動では、チラシ一つにまで神経をとがらせていた。「娘の写真を入れるかどうか迷ってね。もし道に捨てた人がいたら、娘が踏みつけられるような気がしてやめたんです」

 かつて事件記録の一部をコピーした。少年の個人情報に当たる部分は黒塗りされていた一方、娘の命が奪われる過程の詳細な記述はつらかったが、目に焼き付けた。しかし、その記録のコピーも、裁判が終わると弁護士を通じて裁判所が廃棄するよう指示してきた。

 だから中江さんは、記録の廃棄を聞いたとき、裁判所は加害少年の社会復帰を優先し、「事件を終わらせたのだな」と思った。毎日もがき苦しむ中、怒りだけがこみ上げた。「僕も幸姫も、置き去りにされた」

 刑事裁判では、遺族らが求めた危険運転致死傷罪は適用されず、運転手の元少年は、懲役5年以上9年以下の不定期刑が確定した。納得するにはほど遠い判決であっても、記録は、将来に役立てるため永久保存されている、と信じていた。

   ◆

 神戸連続児童殺傷事件を契機に、相次いで判明した重大少年事件記録の廃棄問題。最高裁有識者委員会(座長・梶木寿元広島高検検事長)は、亀岡暴走事故など全国59の少年事件を含む約100事件について記録の廃棄や永久保存の経緯を調査しており、4月にも報告書をまとめる。(霍見真一郎)

失われた事件記録成人未満
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