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「ジェンダーを学ぶ人が一人でも増えてほしい」と語るアルテイシアさん=神戸市内
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「ジェンダーを学ぶ人が一人でも増えてほしい」と語るアルテイシアさん=神戸市内
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アルテイシアさんが脚本を書いた動画の一場面(ユーチューブより)
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アルテイシアさんが脚本を書いた動画の一場面(ユーチューブより)
アルテイシアさんが脚本を務めた動画。性暴力の現場で第三者ができることを提起した(ユーチューブより)
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アルテイシアさんが脚本を務めた動画。性暴力の現場で第三者ができることを提起した(ユーチューブより)
動画「Active-Bystander=行動する傍観者」の視聴はこちら(ユーチューブ)
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動画「Active-Bystander=行動する傍観者」の視聴はこちら(ユーチューブ)

 性暴力を巡って「アクティブバイスタンダー」という言葉が浸透しつつある。痴漢やセクハラなどの現場に居合わせた時、介入して被害を防ごうとする第三者を指し、交流サイト(SNS)を中心に、学校の授業や行政のサイトでも取り上げられる。火付け役の一つとなったのが、神戸市在住の作家らが手がけた約2分間の動画だ。8日は国際女性デー。

 動画のタイトルは「Active-Bystander(アクティブバイスタンダー)=行動する傍観者」。神戸在住の作家アルテイシアさん(47)が脚本を、神奈川県出身の性教育ユーチューバーのシオリーヌさんが監督を務めた。

 通りすがりの男が女性の胸を触って立ち去る。飲み会で上司の男性が女性の肩を抱き「彼氏いんの?」と絡む。動画はそれらを第三者が見ているように映した後、カメラは下を向く。ナレーションが語りかける。

 「その逸(そ)らした視線が、性暴力をしやすい社会を作っています。あなたにできることは何ですか」

 2020年秋に公表すると、ツイッターを中心に200万回以上再生された。

被害が減少

 アクティブバイスタンダーは米国の民間団体から欧米に広がり、取るべき行動を「5D」で示している。

 (1)ディストラクト(注意をそらす)(2)デリゲート(第三者に助けを求める)(3)ドキュメント(証拠を残す)(4)ディレイ(後で対応する)(5)ダイレクト(直接介入する)。

 欧米では教育プログラムを導入した学校で性暴力被害が減る効果があったとの報告も出ているという。

 アルテイシアさんは米国出身の友人から聞いて知った。動画は千葉県香取市などの啓発サイトで活用され、認知の普及に取り組む慶応大学の学生団体「Safe Campus」を通じて紹介された。

4人に1人

 言葉は国内でも徐々に浸透し、佐賀県が昨春までに人権啓発に取り入れた。同時期には警視庁が、市民向け防犯アプリ「Digi Police(デジポリス)」の痴漢対策に「アクティブバイスタンダー画面」の機能を導入。目撃者がとっさに対応できなくても、スマートフォンに出る「ちかんされていませんか?」の文字を被害者に見せることで、介入しやすくなる効果を期待する。

 22年6月公表の内閣府調査で、16~24歳の男女のうち、何らかの性暴力に遭ったことがあると答えたのは4人に1人に上り、被害の内訳は「言葉」が最多の18%、「身体接触」が12%と続く。アルテイシアさんは「見て見ぬふりをせず、行動できる人が増えれば社会が変わる」と訴える。

   ◇   ◇

 アルテイシアさんは、ジェンダー問題をテーマに神戸市東灘区で毎月、市民と語り合う会を開きつつ、全国で講演活動もしている。

 神戸で育ち、テレビドラマ化された「59番目のプロポーズ」で2005年に作家デビューした。

 性差別を感じ始めたのは大学時代だった。女子校の高校でははっきり意見を言うのが当たり前だったのに、共学になると「女のくせに」と言われた。

 振り返れば、幼い頃から何度も痴漢の被害に遭った。就職後は取引先の男性から食事に誘われてキスをされたり、ホテルに誘われたり。上司のセクハラ発言も日常的に浴びていた。

 当時は「私のせい」と自分を責め「男性社会に適応すべきだ」と言い聞かせて愛想よく振る舞っていた。しかし、職場の先輩に勧められた本が転機に。性差別からの解放を目指すフェミニズムを知り「自分はこんな目にあっていい人間じゃない」と初めて思えた。

 「私は怒ってよかった」

 両親の死とも向き合い方を変えられた。母親は父から離婚を切り出され、精神的に病んで亡くなった。その父は商売の不振から自殺した。「男は強くあるべきだ」と誰かに助けを求められずに。親や自分を責めかけたが、男尊女卑の家柄は「社会がつくったジェンダーの呪い」と今なら受け止められる。

 17年から性被害を告白する「#MeToo」運動が世界に広まる中、被害者が声を上げるだけでなく、見て見ぬふりをする傍観者をなくしたいと思った。そんな時に知ったアクティブバイスタンダーをより浸透させたいとして強調する。

 「フェミニストの敵は男性ではない。性差別や性暴力であり、その行動に加担する人々なんです」

   ◇   ◇

 アルテイシアさんは、著書「自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ」で、ジェンダー感覚をアップデートするためのコツをいくつか紹介している。

 その一つが、自分の発言が「男女逆だったら言うか?」と考えること。例えば「女子だけど優秀だね」「晩ご飯を作る旦那さんえらいね」など。

 また「笑えない人がいないか」を考えるのも重要という。冗談で痴漢やセクハラをネタにしたり、エイプリルフールに嘘で同性婚の報告をしたり。「差別の大半は悪意がない人がするもの」と忠告する。

 アルテイシアさんは「ジェンダー感覚は九九みたいなもの。いったん身につけると考えなくてもパッと分かる」と楽しく学ぼうと勧めている。

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