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磁石の名札を張り付け、生徒が自分の居場所を記しておく「イマここボード」=岐阜市立草潤中学校
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磁石の名札を張り付け、生徒が自分の居場所を記しておく「イマここボード」=岐阜市立草潤中学校
パーティションで仕切られた学習スペースも=岐阜市立草潤中学校
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パーティションで仕切られた学習スペースも=岐阜市立草潤中学校
図書室には地元の企業から支援を受けたテントやクッションが並ぶ=岐阜市立草潤中学校
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図書室には地元の企業から支援を受けたテントやクッションが並ぶ=岐阜市立草潤中学校

 自分の担任は自分で選ぶ-。学習する場所も自分で決める…。こんな画期的な「学校らしくない学校」が今、全国から注目を集めている。不登校特例校、岐阜市立草潤(そうじゅん)中学校(同市金宝町4)。兵庫県内にもない、特例校とはどんな学校なのだろう。見学に行ってみた。

 JR岐阜駅から徒歩15分。閉校した小学校を改装した校舎は、中に入ると明るくカラフルだ。黒板の代わりにホワイトボード、廊下の壁には生徒らによる絵が躍る。開け放たれた校長室にはオレンジ色のソファが置かれ、ドアの上には「Well come 自由にどうぞ 今あなたの話を聴く以上に大切な来客は私にはいない」と記されていた。中でも費用をかけたのは全面改装したきれいなトイレだという。

 開校は2021年4月。学校説明会には200人以上が詰めかけた。入学希望者も多かったが、定員40人でスタートした。今春3期生を迎える。開校に至ったのは17年の教育機会確保法の施行。当時、すでに岐阜市内の不登校児童生徒数は全国平均より高く「危機感を持っていた」という。

 どんな学校にするのか。手探りの制度設計には有識者や先進特例校の意見などを取り入れ、さらにフリースクールの関係者や、不登校を経験した通信制高校の生徒にも話を聞いた。

 通常の学校では「自分のペースで勉強できなかった」「合わない先生がいる」「保健室や職員室、相談室など、ゆっくりできるスペースが欲しかった」といった声があり、新しい学校づくりに反映された。

 掲げたコンセプトは「学校らしくない学校」。キャッチフレーズは「ありのままの君を受け入れる新たな形」。つまり生徒は学校に合わせるのではなく、学校が合わせてくれるという正反対の発想だ。

 準備室の室長としても関わってきた井上博詞校長は「長年、従来型の学校で勤めてきたので『正反対のことをしろ』と言われて心がけてきました」と笑う。今でも職員同士で「『それは普通の学校っぽいなー』という会話が飛び交っている」という。

 校区は全市域が対象となるため、始まりは午前9時半だが、登校のスタイルは自分で決める。オンラインでの家庭学習が中心でも、毎日登校でも、数日の登校でも、自由に選択。担任も自分で選ぶ。「話しやすいから」と選んでも「合わない」「もっとほかの先生とも仲良くしたい」などの理由で2カ月ごとの変更が可能だ。「担任は誰でもいいけど、受け持つ生徒が少なく、自分をじっくり見てくれる先生がいい」というリクエストもある。

 朝は、担任とその日の予定を決める「ウオームアップ」の時間から始まる。時間割はあるが、オンラインですべての授業が生配信されているので、どの場所でも受けられる。廊下の「イマここボード」に自分の居場所を知らせておくのがルールだ。

 生徒らはヘルスルーム(保健室)、コミュニティールームなど、教室以外のさまざまな場所から参加している。一日の終わりには「クールダウン」の時間として担任と一日の振り返りをして午後2時35分に下校。オンラインで自宅参加の生徒も担任と学習の成果などを確認できれば、出席扱いとなる。

 井上校長は「出席率を主目的にしているわけではありません」としながらも、21年度の平均登校率は69・7%、オンライン授業などでの出席扱いも含めると85・4%、卒業生15人全員が進学という数字を「学校に対する安心感の表れの一つかな、と手応えを得た」と語る。

 今後は市内の自立支援教室やフリースクールとも連携。一般校でも取り入れてもらえることがあれば-と研修をするなど「多様な学びの確保に力を入れていく」という。

     ◇

【不登校特例校】不登校の児童生徒たちの実態に応じた教育課程を設けている学校。2022年現在、全国に21校(公立12校、私立9校)が設置されている。背景には小中学生の不登校が止まらず、21年度は24万4940人と過去最多になっていることがある。17年に施行された「教育機会確保法」では不登校の児童も教育から取り残されないように、不登校特例校の設置が国と自治体の努力義務となり、文部科学省も設置を促す。かつてのように、不登校を「問題行動」などではなく「いつ、誰でも行けなくなることはあること」と捉え、児童生徒への実態に沿った支援が必要としている。兵庫県教育委員会は時期尚早としながらも、不登校支援の一つの考え方として認識。また、神戸市教委でも有識者の意見を募り、今後の検討課題にしていく予定。

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