コウノトリの野生復帰や温泉地で知られる兵庫県豊岡市。中山間地域のイメージそのままに、少子高齢化と向き合う人口約7万5千人の地方都市に近年、全国の自治体や議会からの視察が相次いでいる。
■ギャップ解消へ豊岡市が「対策室」
ペースは、実に5日に1回。お目当ては、豊岡市役所が2021年に設置した「ジェンダーギャップ対策室」だ。市が先導して、性別による格差解消への取り組みは18年から始まり、今では内閣府の女性活躍フォーラムなどさまざまな場で先進事例として取り上げられる。目に見える成果は、まだ出ていないのに、だ。
市内で359を数える自治会の区長は全員男性。働く男性の8割以上が正規雇用だが、女性は4割強にすぎない。51~60歳の平均給与は、男性の480万円に対して女性はその半分程度-。「先進」からは、かけ離れたデータが並ぶ。
全国の自治体でも「男女共同参画」「女性活躍」、「ダイバーシティ(多様性)」などを冠した部署や条例は増えているが、豊岡市はあえて「ギャップ(格差)」があることを強調する名称になっている。
■「戻りたくない」女性たち
施策の始まりは、人口減少の要因を探る中でたどりついたあるデータだった。U・Iターンで同市に流入する若者の割合を男女別に分析すると、男性の2人に1人に対し、女性は4人に1人にとどまっていた。
女性からすると「戻りたくない」と思うようなまち。その危機感が、雇用創出や子育て環境の整備といった「分かりやすい」施策だけでなく、見えにくいが根強く残る性差に基づく役割分担を解消し、誰もが住みよいまちにして、人を呼び込む戦略へと向かわせた。
◆
「秋祭りでだんじりを押すのは男子だけ。女子でもやりたい、っていう子がいた」
豊岡市内の全中学校の生徒会役員が集まるリーダー研修会で、市立城崎中学校の3年の男子生徒(15)が口にした。22年度のテーマは、学校生活や地域で感じたジェンダーギャップだった。みんな毎年楽しみにしていて話題に上がるが、男子生徒は「祭りに参加できていいな、男子は」という女子の言葉を何度か耳にしていた。
ちょうど校則の変更を検討していた時で、制服や髪の毛の長さの規定も、男女で分けられている校則を見直すことになった。
「伝統文化を変えていいのか分からないけど、やりたい子がいるなら別の方法を考えてもいいのかも」
当たり前に思っていたことが、いつの間にか気になるようになっていた。
◇
ジェンダー(性差)平等の視点を持ちながら物事を見ることを「ジェンダーレンズ」という。地域全体を巻き込んだ取り組みで、市民は何が見え始めているのか。ジェンダーレンズでのぞいてみた。
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