• 印刷
復興住宅を訪ねてきた地域住民と話をする佐藤美恵子さん(左)=宮城県名取市閖上中央1
拡大
復興住宅を訪ねてきた地域住民と話をする佐藤美恵子さん(左)=宮城県名取市閖上中央1
真新しい集合住宅が並ぶ閖上中央第一団地=宮城県名取市閖上中央1
拡大
真新しい集合住宅が並ぶ閖上中央第一団地=宮城県名取市閖上中央1
カラオケで交流する閖上中央第一団地の入居者ら=宮城県名取市閖上中央1
拡大
カラオケで交流する閖上中央第一団地の入居者ら=宮城県名取市閖上中央1

 東日本大震災の被災者向けに整備された災害公営住宅(復興住宅)で、コミュニティーの維持が難しくなるなど高齢化による課題が浮き彫りになってきた。仮設住宅で育まれた近所付き合いも入居に伴って希薄になり、住民による相互扶助が限界に近づく団地もある。

 津波が町を襲い、約750人が犠牲になった宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区。かさ上げされた土地にできた市営閖上中央第一団地を今月、訪ねた。

■高齢化進み、なり手いない役員

 同団地には6階建ての5棟が並ぶ。今年1月末時点で176世帯241人が暮らし、65歳以上の高齢化率は52・3%。名取市の市営住宅平均を7ポイント上回る。

 「草むしりや掃除を呼びかけても、集まる人はわずか。催しの参加者も決まった顔ぶればかり」。住民でつくる管理組合の副会長、佐藤美恵子さん(80)がため息をついた。

 佐藤さんは津波で自宅が流され、6年間の仮設住宅暮らしを経て2017年に次女と入居した。「仮設はみんな知り合いだったけど、ここは知らない人ばかりだった」。19年に副会長を引き受けたが、集会所のトイレ掃除など負担が集中した。

 昨年、自身の悪性リンパ腫が判明し、長期の入院を余儀なくされた。「もう無理」。そうつぶやく佐藤さん。今月末で副会長を辞めることを申し出た。

 この団地では、各階の班長が共益費を集め、棟長に渡す。だが、住民の高齢化が進み、それぞれの部屋を訪ねて徴収するのは大きな負担になっているという。4月から棟長になる三塚三男さん(75)は「みんなで協力しないといけないが、役員のなり手がいない」と嘆く。

■頼りは外部支援、こもりがちな住民も

 独居高齢者も78世帯と、全体の4割に。1人暮らしのお年寄りが部屋で亡くなっていることもあった。

 コミュニティーづくりで頼りになるのは外部の支援だ。一般社団法人「ふらむ名取」(名取市)は茶話会や餅つき、花見などの催しを企画し、団地の住民交流を手助けしている。

 ただし、と格井直光代表理事(64)は指摘する。「ひきこもりがちなお年寄りもおり、特に高齢男性では催しに参加する人が少ない。新型コロナウイルスの影響も大きい」

 名取市によると、閖上地区には一戸建て、集合型を合わせ、計463戸の復興住宅が18年末までに整備された。入居先は、被災者への意向調査に基づいて進めたといい、その結果、住民は閖上のほか内陸の復興住宅などにも分散。まちづくりの合意形成やかさ上げ工事にも時間がかかり、閖上に戻らなかった被災者もいる。

 復興住宅の課題について市は「対応を検討する」としているが、高齢化は予想を上回るスピードで進んでいる。

■息詰まる自治会運営、重なる阪神・淡路の嘆き

 「もう無理」。東日本大震災の復興住宅でそうつぶやく高齢者の声が、かつて神戸で聞いた被災者の嘆息と重なった。

 2014年。阪神・淡路大震災の発生から20年になるのを前に、神戸市長田区の復興住宅を取材した。高齢者がひときわ多かったこの住宅では、自治会の運営に行き詰まり、役員が行政に解散を願い出た。

 「頑張ってきたんですけどね。もう、体も心も限界」。副会長として、共益費の徴収や住民対応に力を尽くしてきた男性の疲れ果てた表情を思い出す。

 兵庫県内の復興住宅で高齢化率が50%を超えたのは、ちょうどその頃だった。今月11日で震災発生から12年となる東北では、それより速いペースで課題が顕在化しているように感じる。見守りやコミュニティー維持といった阪神・淡路の取り組み、そして反省はどこまで共有されているか。宮城県名取市でメモを取りながら、そんな疑問が浮かんだ。

東日本大震災
もっと見る
 

天気(9月7日)

  • 34℃
  • 27℃
  • 20%

  • 36℃
  • 24℃
  • 40%

  • 35℃
  • 26℃
  • 20%

  • 35℃
  • 25℃
  • 30%

お知らせ