１９９０年代後半から２０１０年代前半生まれの「Ｚ世代」の大学生と企業がタッグを組み、新商品を生み出す動きが活発化している。幼少期からインターネットに親しみ、今までとは異なる価値観を持つ若者たち。「あと数年で消費の中心」というＺ世代のニーズをつかもうと、大学生の声を取り入れ、味やコンセプト、交流サイト（ＳＮＳ）での「映え」にこだわった日本酒やスイーツが、兵庫県内で誕生している。

　２月下旬、清酒「福寿」の蔵元、神戸酒心館（神戸市東灘区）の直営店で、法被を着た大学生が商品をＰＲしていた。手に持つのは、つや消しの黒い瓶とピンクのラベルが特徴のＺ世代向け日本酒「Ｐｅｔｉｔ　ｊｕ（プティジュ）」だ。

　きっかけは神戸酒心館が昨年４月、「Ｚ世代が本当に飲みたい日本酒を作りたい」と、関西学院大商学部（西宮市）の石淵順也教授に持ちかけたこと。４年生のゼミ生１８人が日本酒市場の実態把握や商品開発を学び、同６月から開発に取り組んできた。

　同世代の若者に聞き取りをしたところ、普段から日本酒を飲む学生は少なく、多くはチューハイや生ビールなどを飲んでいたという。また、日本酒には「アルコール度数が高くて（酔っぱらうのが）怖い」などの苦手意識があったが、実際に飲むと「意外にも飲みやすい。おいしい」という感想だった。

　苦手意識をどうすれば克服できるか－。商品のコンセプトを検討していた学生は、近ごろ話題になっている造語の「ホカンス」に着目した。ホカンスとは、ホテルでおいしい物を食べたり、友達と語り合ったりして、優雅に休暇を楽しむことを意味するという。

　ホカンスに合う味わいを探ろうと、学生は神戸酒心館の日本酒を複数試飲し、飲みたい味を模索。華やかでフルーティーな味わいを残しながら、アルコール感が強くない独自のブレンドの日本酒が仕上がった。

　さらに大切なのは「映え」。ホカンスではシャンパンボトルなどを手に集合写真を撮るのが定番といい、それをイメージしてボトルをデザインした。従来の日本酒ではあまり見かけないつや消しの黒い瓶に華やかなピンクのラベルを付け、豪華なイメージの金色で王冠や文字をあしらった。

　ゼミの男子学生（２２）は「授業で学んだことを生かして日本酒業界を盛り上げることがゼミの目標で、達成できるものができた」と胸を張る。

　神戸酒心館の久保田博信副社長（４７）は「飲む頻度は高くないが、飲むときは飲み、非日常を味わうという次の世代の考え方を知ることができた」と満足げ。「限られた飲酒機会に、どれだけおいしいと思ってもらえるか。今後の商品作りに生かしたい」とする。

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　武庫川女子大経営学部（同）の高橋千枝子教授のゼミ生も、企業とコラボし、昨年５月から「Ｚ世代がネットで買いたくなるスイーツ」を開発した。フランスの洋菓子「カヌレ」と、砂糖と寒天で作ったかわいらしい「琥珀糖」で、今年２月に阪神梅田本店（大阪市北区）で販売すると、学生のＳＮＳを見た客が訪れ、想像を超える売れ行きだったという。

　高橋教授はＺ世代の考え方を、文章より動画優先▽持続可能な開発目標（ＳＤＧｓ）やエコなどに敏感▽堅実－などと解説する。さらに「情報発信力があり、それによって消費が動く」とし、「企業は将来メインのお客さんになる層の声を『分からない』のはまずいと考えている」。企業と大学生が商品開発で連携する動きは、今後も続きそうだ。

【メモ】関西学院大の学生による日本酒「プティジュ」は３００ミリリットル入りで６９３円。神戸酒心館の直営店「東明蔵」で数量限定販売している。武庫川女子大の学生のスイーツは「テイストメイドジャパン」（東京都）のオンラインショップで購入できる。カヌレ１８５０円、琥珀糖２個セット２１６０円。