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インタビューに応じる国立女性教育会館の萩原なつ子理事長=兵庫県豊岡市内
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インタビューに応じる国立女性教育会館の萩原なつ子理事長=兵庫県豊岡市内

 ジェンダーギャップ(男女格差)の解消に向け、2018年から取り組みを始めた兵庫県豊岡市。地域コミュニティーや家庭にも賛同の輪を広げようとしている。同市の「地域啓発アドバイザー」を務める独立行政法人・国立女性教育会館(埼玉県)の萩原なつ子理事長に、ジェンダーギャップ解消への課題や推進する上でのポイントなどを聞いた。

-豊岡市の取り組みをどう見ているか。

 「ジェンダーギャップという(否定的な)言葉を、そのまま使用した『ジェンダーギャップ対策室』という名称に本気度が表れていると感じた。1999年に男女共同参画社会基本法ができたことで、多くの部署が男女共同参画推進室などをつくり、今はダイバーシティ推進室などが増えている。豊岡市の場合には、前市長が『ギャップ(格差)』や『バイアス(偏見)』があるということ、何が問題であるかを明確に認識し、そこを取り除かない限り、地域の今後はないとの思いで名付けたのだろう。ギャップを解消しない限り、本当の意味で男女平等もないということを示している」

-「私たちのまちには格差がある」と言われると反発もあるのでは。

 「ある種のショック療法だろう。そもそも特権を持っている人は格差に気付きにくく、考えたことがなければ、拒絶反応を起こしたり、『何だそれ』と思ったりするだろう。だけど、そこがスタートでもある。ジェンダーの問題に限らず、反発するのは何かを感じたということ。例えば、反発してくれる人がいると、その人に集中的に理解をしてもらうように対話する。理解してくれると味方になってくれる。経験上、反発など反応してくれる人が多ければ多いほど展開しやすい」

 「マジョリティー(多数派)の人たちは自分たちが普通だと思っているので、まず格差があるということに気付いてもらうには良いのではないか」

-豊岡市での「地域啓発アドバイザー」としての取り組みは。

 「地域コミュニティーのトップは全員男性なので、その人たちの啓発から始めた。1年目は新型コロナウイルス感染拡大のためオンラインだったが、各地域のコミュニティーの会長などと一緒にワークショップを行った。以降も各地域に赴いて、女性だけではなく男性の問題でもあること、『男もつらい』という話などを、男性たちとともにしてきた」

 「高度経済成長を支えてきた人たちの生き方そのものを否定するものでは決してない。時代が変わっていく中で価値観も方法も変わってくる。次の世代の人たちのために、見守ってほしいけれど、自分たちの世代ではこうだった-などと意見を押しつけないという意味で、『お邪魔はいいけど邪魔しないでね』と言っている。直接対話をして、地道に続けていき、そうした感覚がじわじわと染みこんでいけば」

 「また、幼稚園や保育園の先生たちへの研修も効果がある。孫育てに関わる祖父母への教育も同様だが、無意識のバイアス(偏見)が子どもたちの未来に影響するので、ジェンダーバイアスを取り除く、これも地道な作業だが必要なこと。こうして上や下、横からありとあらゆる角度から仕掛けをした」

 「一番大事なことは『子どもたちの未来の可能性を奪わないように』ということ。性別によっていろんな選択肢が阻まれてしまわない、選択肢が自由に選べることが大切。なので、その子のやりたいことなどを伸ばしていけるような、家庭や幼稚園・保育園、学校、地域社会であることが大事だ」

 「こうして視点を未来にずらしてあげると、みなさんは共感すると思う。合意形成の極意だが、優遇しているという見方ではなく、『今の子どもたちが自分らしく生きていける社会を、一緒につくっていきませんか』と投げかけると、『確かにそうだな』となっていく」

-役所や企業など組織ではトップダウンで進められる部分が大きいが、地域コミュニティーでは難しいのでは。

 「ワークショップでは、一人一人に『気付き』を持ってもらい、私たち研究者がその意味を分かりやすく解説する。あるいは歴史をひもとく。『男尊女卑はいつから始まったのか』という地域の人からの疑問に答えて解説したこともある。 歴史は『His(彼の)ストーリー』。しかも特権を持っていた人たちの記録だ。それを一般市民の視点から見たり、女性の視点から見たりしたらどうだろうかと」

 「子どもや孫たちが生きやすい環境、『(その人にとって最も良い状態である)ウェルビーイング』な環境を一緒につくっていきませんか、と巻き込む。企業は人不足やグローバル化もあって女性登用などジェンダー平等が進むが、地域コミュニティーにおいても、女性が帰ってこないという危機意識を共有できるかどうかだ」

-地域の自治会組織でも意思決定をする場は大半が男性。そもそも属性が偏っているとなぜいけないのか。

 「例えば農業を例にすると、『(単一作物を大規模に栽培する)モノカルチャー』だと土は疲弊する。作物は大きくならなくなり、虫もつきやすくなる。地域も同じだ」

 「地域社会の中にも多様な人がいる。だけど、それぞれが生かされているだろうかと。女性に限らず、子どもも大人も主体的に関われるものがあり、それぞれの可能性や能力を引き出すようなチャンスを与えていく組織にしていかないといけないのではないか」

 「物事を決める時に男性だけではなく、その地域の中にいる子どもや障害のある人、外国にルーツのある人など、その人たちの持つ力を集めて元気な地域にしていこうと話をしている」

-今後、取り組みを続けていくにあたって意識しておくべきことは。

 「まず、属人的にならないように仕組みをつくり、さらにその仕組みもバージョンアップさせていくことが必要。もう一つは、理念をしっかりと継承していくこと。流行的にダイバーシティという言葉でハッピートーク(楽しい話題)にならないよう、賃金格差などのギャップがあり、その課題を解決していくためにこの取り組みを始めたのだという原点へ振り返りながら進めてほしい」=おわり=

【はぎわら・なつこ】1956年山梨県生まれ。お茶の水女子大大学院家政学研究科修了。宮城県環境生活部次長、武蔵工業大助教授、立教大学教授などを経て、2022年から現職。

【特集】都道府県版ジェンダー・ギャップ指数

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