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南棟の台所。木枠の窓や自作のストーブが印象的だ=神戸市垂水区塩屋町
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南棟の台所。木枠の窓や自作のストーブが印象的だ=神戸市垂水区塩屋町
北棟のバルコニー。周囲の山林が見渡せる=神戸市垂水区塩屋町
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北棟のバルコニー。周囲の山林が見渡せる=神戸市垂水区塩屋町
自宅周辺の畑で季節の野菜を育てる澤井まりさん。肥料は生ごみを活用する=神戸市垂水区塩屋町
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自宅周辺の畑で季節の野菜を育てる澤井まりさん。肥料は生ごみを活用する=神戸市垂水区塩屋町
葦戸(よしど)が美しい外風呂=神戸市垂水区塩屋町
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葦戸(よしど)が美しい外風呂=神戸市垂水区塩屋町
薪(まき)で湯を沸かすボイラー=神戸市垂水区塩屋町
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薪(まき)で湯を沸かすボイラー=神戸市垂水区塩屋町

 2011年の東京電力福島第1原発事故をきっかけに、自分のライフスタイルを見つめ直し、納得できる生き方を実践する女性がいる。神戸市垂水区塩屋町の澤井まりさん(43)。事故の2年後、海岸近くまで山が迫る塩屋に移り住み、自給生活を送る。とは言っても「仙人」のような暮らしではない。「自立を目指せば目指すほど、人との関わりが必要だった」と澤井さんは話す。古家を改修中という自宅を同僚と訪ね、「澤井流」の生活術を見せてもらった。

 原発事故の衝撃は大きかった。お金を稼ぎ、消費する生活を否定された気がした。「誰かの犠牲の上に、私たちの暮らしは成り立っている」。幼い頃から母に言い聞かされてきた言葉が胸に響いたという。

 澤井さんは仕事をやめ、当時住んでいた京都・伏見の古民家に閉じこもる生活を半年ほど送る。その後、電力自給のワークショップなどを受けていたが、突然、売却を理由に自宅から立ち退きを求められる。

 移住するなら自然豊かな場所がいい。でも、山奥だと車が必要になる。都会近くで田舎暮らしがしたい-。

 希望を知ったバンド仲間が紹介してくれたのが、塩屋の古家だった。駅から歩いて10分ほどの場所にあるが、周辺には山里の雰囲気が漂う。

 夫秀和さん(47)の反応は「面白い。ここにする」。北隣の古家も売りに出されていると聞き、合わせて購入した。価格は2棟で約400万円。塩屋は急傾斜地で建て替えが難しいため、格安の物件を見つけやすい。

 2棟とも傷みはあったが、夫婦で「リノベーション」することにした。資材はSNS(会員制交流サイト)で提供を呼びかけ、廃材や不要なれんがなどを集めた。

 南棟のキッチンは、壁を壊して木枠の窓を上下につけた。家のデザインは秀和さんが担当し、タイルなどの装飾は澤井さんが担当した。秀和さんは図工の講師を務め、デザインはお手のものだ。北棟には、山林を眺められるバルコニーがある。

 葦戸(よしど)が印象的な外風呂も完成させた。内部はウルトラマリンのタイルに窓から見える山林が映える。

 エネルギーや食糧の自給も追求している。

 淡路の業者から薪(まき)ボイラーを購入し、ストーブは自作した。屋根には太陽光パネルや温水器が光る。家の周りの畑を耕し、一年中収穫できるよう種をまく。みそやしょうゆなどの調味料も可能な限り作っている。

 ただ、無理はしない。薪の用意がしんどい時は電気もガスも使う。大工仕事の一部は得意な人に手伝ってもらい、お礼に手料理やお酒を振る舞う。畑も共同管理し、助け合って収穫している。

 「夫婦二人で完結させるのは難しい。周りの人を巻き込んだ方が、目指す生活に近づく」と澤井さんは強調する。

 貨幣経済とも向き合った。お金と無縁の生活は成り立たない。ならば納得できる形で稼ぎ、仲間と分け合いたい-。その答えが2年前に開業した古着店「シオヤコレクション」だ。

 古いおしゃれ着などを寄付してもらい、収益の一部で福祉活動を支援する。狭い路地に家や店が立ち並ぶ塩屋ならではの「助け合う文化」を生かし、まちの良さをアピールする狙いもある。

 人にも環境にも優しい暮らしは、人の中に身を置いてこそ実現できる-。澤井さんからそう教わった気がした。

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