若者に人気の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を通じて、兵庫県姫路市内の僧侶が法話を発信している。3年間で約130本を投稿し、登録者はもうすぐ10万人に到達する人気ぶりだ。季節の話題、人との付き合い方、命のこと…。分かりやすく短い動画で、若い世代が抱える悩みや不安を和らげる。(森下陽介)
姫路城から東へ約400メートル。住宅地の一角に1143(康治2)年創建の天台宗・正明寺(兵庫県姫路市五軒邸2)がある。副住職の小林恵俊(えしゅん)さん(32)は大津市の叡山学院で仏教の基礎を学び、2017年から同寺に在籍している。
投稿を始めたのは3年前、新型コロナウイルスの感染が拡大してからだ。コロナの影響で寺に足を運ぶ人が減り、檀家(だんか)を訪れての説法なども中止になった。「仏教離れ」が進んでいくのを肌で感じた。
対策を模索する中で、小林さんは交流サイト(SNS)に注目。直接出向く必要がなく、これまでほとんど接点がなかった若い世代とも相性がいい。早速、カメラやマイクなどの機材をそろえて「えしゅん お寺」の名前で投稿すると、想像以上の反響があった。若者から高齢者まで広がり、じわじわと登録者を伸ばし続けた。
短い動画が連続して流れるティックトック。小林さんは、身の回りの出来事や季節の話題を絡め、法話になじみがなくても興味が持てるように工夫し、40秒ほどの動画を作ってきた。
1月に投稿した1本は、苦手な人との付き合い方がテーマだ。相手に理不尽なことを言われても、仏教用語で侮辱に耐え忍ぶ意味の「忍辱(にんにく)」の修行と捉えようという内容。「貴重な人生の修行と考えることで、嫌いな相手も仏が引き合わせた『仏縁』にできる。少しでも生きやすくなるのではないでしょうか」とまとめた。
最も多く再生された動画は、動物の死骸を見たときの嫌悪感をテーマにした。「かわいかった動物が、死後は気持ち悪がられるのはかわいそうです。まずは手を合わせて『南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)』と唱えてみてください」。自身の経験も踏まえて心を穏やかに保つ方法を提案すると、再生数は400万回を超えた。
「ずっと『何かしてあげたい』って思っていました」「気持ちが少し楽になりました」。動画のコメント欄は感謝を伝える言葉であふれた。
若者の関心を引き寄せている理由について小林さんは「SNSが発達して、人の嫌な部分や悪口に触れる機会も増え、悩みを抱える若い世代が多くなったのでは」とみている。コメントには、学生とみられる視聴者から人間関係の悩みが多く寄せられるという。
現在も月に5本のペースで投稿を続ける。「バズる(SNS上で話題になる)ことを目指すというよりは、少しずつでも若者にとって仏教が身近な存在になって、もっと一人一人に寄り添うことができれば」と小林さん。気負わず、息の長い取り組みにしていきたいという。
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