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画期的な薬を開発しても商品化されるとは限らない=神戸大大学院医学研究科
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画期的な薬を開発しても商品化されるとは限らない=神戸大大学院医学研究科
野津寛大さん(右)と市川裕太さん
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野津寛大さん(右)と市川裕太さん
飯島一誠さん
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飯島一誠さん

 治療法のない腎臓の難病に、有力な薬が見つかった。だが患者は全国に3人しかおらず、商品化する製薬会社が見つからない。治療しなければ若いうちに末期の腎不全になり、人工透析なしでは生きられなくなる。何とか救う手だてはないだろうか-。

■明確な結果

 神戸大教授の野津寛大さん(50)=小児科=らの研究グループが開発したのは「アルポート症候群」の治療薬。マウスによる実験では、投薬された個体は半年たっても1匹も死なないが、投薬しないグループは半数以上が死んだ。「これほど明確な結果はなかなか得られません」と野津さんは強調する。

 使用したのは「核酸医薬」と呼ばれる薬だ。個人の遺伝子を詳細に調べて病気の原因となる変異を突き止め、直接働きかける。野津さんらは、重症型のアルポート症候群の変異を軽症型に置き換える手法を開発した。核酸医薬の合成法は確立しており、原因となる遺伝子が分かれば短期間で完成できる。他疾患では、筋肉の萎縮や呼吸困難を起こす難病「脊髄性筋委縮症」に対する核酸医薬「スピンラザ」などが承認されている。

■開発費打ち切り

 アルポート症候群の発症率は数千~1万人に1人程度とされ、遺伝性腎疾患の中では比較的多い。しかし、同じ病気でも遺伝子変異の現れ方はさまざまで、タイプによって核酸医薬は異なる。それゆえ、治療薬を開発しても対象患者は限られてしまう。

 野津さんらは臨床試験(治験)に向け、該当する患者の情報を全国から募ったが、3人しか見つからなかったという。商品化しても採算は見込めず、手を挙げる製薬会社は現れていない。これまで国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)から得ていた研究開発費も打ち切りが決まった。

 研究グループに名を連ねる飯島一誠(かづもと)・兵庫県立こども病院長(66)=前神戸大教授=によると、米国などでは核酸医薬開発を支援する仕組みがあり、たった一人のための薬も創られた。「長期間の高額な治療費をどう支えるかも含めて、日本に適したモデルの構築が求められる」と飯島さんは指摘する。

■ある女性医師の存在

 野津さんは「薬が商品化されれば発症を大幅に遅らせ、患者が長い間社会で活躍できる可能性が広がる」と訴える。その念頭には30代の女性医師の存在がある。

 重症型のアルポート症候群と診断され、野津さんのもとに通ううちに医師を志した。女性は核酸医薬の開発について「主治医が患者のために頑張ってくれているのはうれしい」と話す。

 だが、女性の遺伝子変異は今回の研究対象とはタイプが異なる。そのため、薬の開発には動物実験を一からやり直す必要がある。

 野津さんは「核酸医薬を広げるには、細胞レベルで安全性が確認されれば動物実験を省力化できるなど、早期開発に向けた仕組みづくりが必要」と話す。

 野津さんの研究室には、未承認薬の投与で命を救われた大学院生もいる。医師の市川裕太さん(33)だ。子どもの頃、悪性リンパ腫と重い腎臓病の両方が奇跡的に治った。それだけに、新薬に対する思いは強い。

 「希少な病気の子どもも救えるように、薬の開発や投与に道を開いてほしい」と市川さんは力を込める。

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