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ロシアのウクライナ侵攻の現状を示すデータについて説明する船越真人さん(右)と美貴さん夫妻=加古川市加古川町
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ロシアのウクライナ侵攻の現状を示すデータについて説明する船越真人さん(右)と美貴さん夫妻=加古川市加古川町
ロシア軍のミサイル攻撃で破壊されたオデッサの住宅(船越真人さん提供)
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ロシア軍のミサイル攻撃で破壊されたオデッサの住宅(船越真人さん提供)
ロシア軍の攻撃で破壊されたキーウ郊外のリハビリテーションセンター(船越真人さん提供)
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ロシア軍の攻撃で破壊されたキーウ郊外のリハビリテーションセンター(船越真人さん提供)
オデッサの船越真人さんの教会で開かれた食事会(船越真人さん提供)
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オデッサの船越真人さんの教会で開かれた食事会(船越真人さん提供)
神戸新聞NEXT
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 戦禍が長引くウクライナ南部の都市オデッサで、避難民支援を続ける宣教師夫妻がいる。兵庫県加古川市出身の船越真人さん(52)、美貴さん(53)。共に敬虔なクリスチャンとして育ち、結婚後の1998年、オデッサに赴任した。親ロシア派と反対派の溝を感じながらも伝道に励む港町での暮らしを、ロシアによる侵攻が一変させた。(津谷治英)

■複雑な歴史を肌で感じながら

 2人は幼いころから加古川バプテスト教会(加古川市加古川町)に通い知り合った。真人さんは高校卒業後、米国留学を経て聖職の道を選んだ。美貴さんも看護師を経て牧師となり、94年に結婚した。

 真人さんが米国の神学校で学んでいた90年前後は、東西冷戦が終焉した歴史的な時代だった。ベルリンの壁崩壊、ソ連消滅-。「衝撃的だった。日本からは縁遠かったソ連周辺に興味が強くなった」と振り返る。

 加古川バプテスト教会も旧ソ連への派遣スタッフを募っていた。真人さんは赴任を希望し、美貴さんも同意した。オデッサは黒海に面した港湾都市で、歴史的建造物が数多く残る。赴任後、米国で学ぶ長男の勇貴さん(22)が生まれた。

 教会に集まる現地の人々と接しながら、ソ連に搾取されてきた複雑な歴史も肌で感じてきた。ソ連崩壊後も、親ロ派と反対派が交互に政権を担い国民は揺れ、相次ぐデモ衝突では血が流れた。真人さんは「教会の信者の間でも溝があった」と振り返る。

■「ロシア兵が上陸」パニックに

 2014年のクリミア併合で、ウクライナにとってロシアは完全な敵国となった。そして22年2月24日、ロシアの侵攻を迎える。

 直後、オデッサにミサイル4発が打ち込まれ、近郊のミコライウ、ヘルソンは砲爆撃にさらされた。オデッサにロシア軍が上陸したとの誤情報も流れ、現地では外国人である真人さんと美貴さんはロシア兵に拘束される危険を感じた。

 「拘束されると生命の保証はなく、パニックになった」と振り返る真人さんは、安全を求める市民らと西部へ避難した。避難民でごったがえす駅を見た。新型コロナウイルス対策どころではなかった。列車で赤ちゃんを抱いたまま、2日間立ちっぱなしだったと話す母親もいた。

 戦闘は想定を超えて長期化する。南部の惨状をニュースで見た夫婦は「今こそ困っている人を助けたい」と同9月、オデッサに戻り支援に乗り出した。

■居場所がない人々に容赦のない攻撃

 加古川バプテスト教会を通じ日本で集まった義援金で食料、衣料など生活物資を購入。2週間に1度、約160キロ離れたミコライウ北部の村などへ、車で2時間半かけて運んで配った。

 破壊された建物、戦車の残骸などの戦火の爪痕を縫って移動した。変わり果てた街の姿に胸を痛めた。支援先では激戦地のヘルソンから着の身着のままで逃げてきた市民が待っていた。

 親ロシア派やロシア軍が占拠する東部はロシア語を話す人が多く、キーウをはじめ西部はウクライナ語を話す人が多い。一方でオデッサ、ヘルソン、ミコライウといった南部一帯は「ノボロシア(新しいロシア)」と呼ばれ、双方の混在地域だった。

 貧困層は外国へ脱出する経済的余裕がなく、言葉の壁で西部への避難も不安を抱える。この地しか居場所がない彼らに、ロシアは容赦がない。昨年秋から発電所への攻撃を強め、オデッサでも停電が相次いだ。夜は明かりがなく、夫婦はろうそくを頼りに作業を続けた。

 自家発電機を買い、昨年12月から2月末まで冬季支援プログラムを企画。夜、避難家族を教会に招いて食事を振る舞い、子どもたちに遊ぶ場を提供した。

■召集される信者、相次ぐ訃報

 教会の信者もウクライナ軍に召集され、訃報にも接した。若い夫婦は、30代の夫が死亡。支援物資配布を手伝ってくれた40代半ばの男性は戦死した。美貴さんは「残された家族のことを考えると本当にいたたまれない。心が引き裂かれる思い」と落胆する。

 真人さんは「戦争はさらに激化するかもしれない。オデッサでは男性の召集が相次いでおり、今後もつらい報告を聞くかもしれない」と表情は暗い。

 3月に日本に一時帰国した夫婦は、加古川バプテスト教会を拠点に各地で現地報告会を開いている。市民が砲爆撃にさらされ、知人が戦死する生々しい現状を伝える。

 4月12日にウクライナに帰国し、再び支援活動に従事する。真人さんは「人々は戦争に勝つために団結し、悲しみ、怒りに必死に耐えているようだ。戦後、我慢していたものが一気に噴き出すのでは」と心配する。

 特に懸念されるのが、帰還兵の精神的不安定だ。真人さんは「今は英雄扱いされているが、重傷や心に傷を負った兵隊は仕事ができずに苦しむ。アルコール、薬物依存になる可能性が高い」と心配する。

 夫婦はそれでも、現地の市民を支える覚悟だ。「不安になる時こそ、傷ついた人々の力になりたい。ウクライナに移住したのは偶然ではなく自分の使命だと思う。戦争が終わり、復興した街を見るのが私の夢です」

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