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2年間毎日一緒に過ごしてきたパソコン。仲間と一緒に作った力作の資料も、あれも、これも、もう見られない=神戸市内
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2年間毎日一緒に過ごしてきたパソコン。仲間と一緒に作った力作の資料も、あれも、これも、もう見られない=神戸市内

 コロナ禍、児童生徒に1人1台のデジタル端末を整備する「GIGAスクール構想」が進んだが、子どもたちが端末に保存した発表資料などの取り扱いを巡り、兵庫県内の学校でばらつきが出ている。教育委員会の方針に基づき、個人のパソコンへのデータ移行が認められない神戸市や芦屋市に対し、姫路市や西宮市などは共有が可能。卒業を前に、神戸市の中学3年生はつぶやいた。「もう一生見られへんの? うそやん…」。(鈴木久仁子)

二度と見られへんの…つらい

 学習の成果や力作がぎっしり詰まった端末。そんな「青春の思い出」の行方について、疑問に感じたのは神戸市立中学校の3年生だ。卒業前に返却する端末を前に、むなしい気持ちに襲われたという。

 パソコンが配られたのは2年生の時だった。まずはローマ字入力の練習から始まった。ぎこちなかったのもつかの間、触っているうちにどんどん使いこなせるようになり、さまざまな授業で端末は活躍するようになった。

 例えば校外学習。行く先の歴史や見どころなどを下調べしたり、事前に資料を作ったり。当時の気持ちがこもった美術作品の画像も保存した。

 中でも、消えるのが「惜しい」のが、発表資料作成ソフト「パワーポイント」を利用し、班の仲間と作った環境問題がテーマの資料。2カ月かけて何時間も話し合い、デザインも練りに練った労作という。

 これが二度と見られないのかと思うと、「頑張った証しが無になったように感じてつらい。高校生になって、つらい時やしんどい時に、見返したらきっと『成長したな』と思えて励まされるのに…」と生徒。

 返却を前に、データを個人のパソコンに移したいと先生に訴えたが、「外部には出せない」と言われ、なすすべもなかったという。

ウイルス対策やセキュリティー優先

 この生徒の訴えを耳にした記者が、神戸市教育委員会に問い合わせると、担当者は「これまでそんな問い合わせはなかった」と驚いた様子だった。続けて「ウイルス対策やセキュリティーを最優先し、USBメモリーに取り込んでの保存や通信はできないようにしている。先生の手を借りれば、画面の印刷はできる」と話した。隣接する芦屋市も同様だった。

 一方、姫路市や明石市、西宮市、加古川市の各教育委員会に聞くと、いずれも公立校の生徒たちはインターネット上で情報共有ができる「クラウド機能」などを使い、個人のパソコンにデータを移行できる道が開かれていた。これだと、貴重な資料が消えることはない。

 それぞれの教育委員会は「データのバックアップは必要」「端末は破損の恐れもある」「GIGAスクールのメリットは、広くデータを共有できること」などと理由を説明し、保護者へも操作方法を案内しているところもあった。

 ちなみに、文部科学省はどう考えているのか-。取材に対し、同省の担当者は、端末の扱いに関する方針やルールを決めるのは各教育委員会としつつ、2021年12月に公表したガイドライン「GIGAスクール構想 年度更新タスクリスト」を示した。

 そこでは「卒業する児童生徒の学習成果物」について、「個人のアカウントに移行する、外部媒体に出力して提供する等、方針とその方法を児童生徒に指導する」と記してあり、データ移行に前向きな内容になっている。

 あらためて神戸市に聞くと「セキュリティーとのバランスを考えると難しい。移行するデータの選択も先生がすべて把握するのは不可能で、早急には考えられない」との答え。卒業生のもやもやは当面続きそうだ。

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