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自身の警察人生を振り返る加藤公英警視=兵庫県警本部
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自身の警察人生を振り返る加藤公英警視=兵庫県警本部

 全国で初めてストーカー・DV(ドメスティックバイオレンス)捜査の「警察庁指定広域技能指導官」に選ばれた兵庫県警の加藤公英警視(60)が31日付で定年を迎え、退官する。1999年の埼玉・桶川ストーカー殺人事件を教訓に施行された「ストーカー規制法」や捜査の在り方について、国会議員との勉強会などで意見し、全国の都道府県警で講演してきた。警察批判に向き合い、捜査手法を模索した第一人者は「人の命を守るために何ができるか、常に考える警察であってほしい」との思いを後進に託す。

 薬物捜査員として海外研修も経験したが、組織改編で生活安全部に残ったのを機に、40代からストーカー捜査の道を歩んだ。

 兵庫県警にも教訓とすべき事件があった。規制法施行前の99年、太子町で20歳の女性が元交際相手に殺害されている。女性は過去に同じ男からの暴行被害を県警に相談しており、遺族による損害賠償請求訴訟では「怠慢捜査」と認定された。

 警察としての苦い経験を学び直すことからの出発。「どうすれば事件化できるか。法律を縦から横から後ろからひたすら読み込んだ」と加藤さんは振り返る。

 2010年、元交際相手の夫に嫌がらせメールを繰り返し送った疑いで、大手企業の役員を逮捕した。被害女性が「やっと安心して暮らせる」と目に涙を浮かべるのを見て、男女のトラブルを不拘束で済まさない意義が身に染みたという。

 兵庫県警は09年から5年連続で、規制法に基づく摘発件数で全国最多を記録した。当時の警察庁幹部の目に留まり、13年、加藤さんは全国で初めてストーカー・DV捜査の広域技能指導官を任された。全国の事件を研究し、対策を先導する立場になった。

 12年に神奈川県逗子市で起きた事件では、当時33歳の女性が殺害される前年、警察官が元交際相手に対し、脅迫容疑の逮捕状に記載された被害者の結婚後の姓や住所の一部を読み上げていたことが問題視された。そこで兵庫県警は全国に先駆けて被害者の住所、氏名を秘匿した逮捕状でストーカーの容疑者を逮捕した。

 13年に東京都三鷹市で女子高校生が殺害された事件後には、人身安全関連事案の初動支援部隊設置を全国に推進。加藤さんが都道府県警の指導に回った。

 「殺人事件を何件未然に防げたのかは測りようがない」のが難しさで、対策に完成形がないゆえんでもある。福岡市では今年1月、接近の禁止命令を受けていた男が元交際相手を刺殺する事件があり、被害者の自衛に頼る現行法の限界を指摘する声もある。

 18年発足の「人身安全対策課」で管理官、課長を歴任し、「加害者の逮捕が最大の被害者保護」と説いてきた加藤さん。3月下旬の最後の出勤日、課員にこう呼びかけて庁舎を去った。「反省すべきは反省し、もっといい方法を考えよう。人の命を守るという警察の存在意義を忘れることなかれ。県民と共にあれ」

(井上太郎)

【ストーカー規制法】恋愛感情のもつれによる待ち伏せや電話、交際要求を繰り返す行為を禁じる法律。埼玉県桶川市で女子大学生が殺害された事件を機に、2000年に成立した。過去3回改正され、21年には相手の承諾なく位置情報を把握する行為などが規制対象に追加された。法に基づく禁止命令数は22年に1744件で過去最多を更新。緊急時は警告なしに命令を出せるようになった17年の法改正以降、増加傾向が続く。禁止命令に違反した場合の罰則は2年以下の懲役か200万円以下の罰金。

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