• 印刷
友一君が使っていた食器やおもちゃなどが並ぶ食卓=神戸市内
拡大
友一君が使っていた食器やおもちゃなどが並ぶ食卓=神戸市内

 小学4年生の長男を2年前に亡くした神戸市の女性は、息子が生きていれば出るはずだった今春の卒業式に招かれなかった。「他の子どもたちを動揺させないで」と学校に求めたことはあるけれど、式典への意向について何の連絡もなく、自身もどうしていいか分からなかったことに心が晴れない。取材を進めると、学校側も配慮した末の判断だったという。双方にとって、どのような対応が望ましかったのだろう。(竜門和諒)

 「お子さんを亡くされた親御さんに聞きたいです。卒業式へのお誘いを学校から希望しますか?」

 4月上旬、神戸市内に住む真由美さん(48)=仮名=から神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に問いかけがあった。

 2020年11月、10歳だった長男の友一君(仮名)は突然この世を去った。

 不慮の死だった。学校には、他の子どもたちに詳しく伝えるのは控えてほしいと求めたのを覚えている。

 その約1年後の昨年初春、当時の校長と担任教員が転勤を前に自宅を訪ねてくれた時には、しばらくは静かに息子と向き合いたいという趣旨の話をした。

 「次の校長に引き継ぐので、また連絡があると思う」。前校長から言われ、確認はしなかったが、それは卒業式を意味するのだと思った。

 正直、出席するかどうかは迷ったという。会場にいても、息子の名前は呼んでくれるだろうか。卒業証書はもらえるのだろうか…。不安は消えない。そこで、学校側の提案に合わせることにしようと決めた。

 だが、連絡はなかった。

 卒業式が近づき、それが学校としての判断なら仕方がないと思い、自分から連絡するのはやめた。式が終わり、もう忘れよう、期待したわけではないと自身に言い聞かせようとしたが、できなかった。

 ふと思った。「友一も同じ気持ちで卒業の日を迎えたのか…。そうしたら、悲しくて」。他の人はどう考えるか知りたくなった。

    ■

 真由美さんは、わが子を亡くした保護者の会に参加するようになり、経験談を聞いた。学校から連絡があった家もあれば、なかった家もある。自ら問い合わせて担任から「卒業アルバムを渡せば良いと思っていた」と言われて愕然とした親がいた一方、自分から希望を伝えて級友らの前で話をした親もいた。

 神戸新聞社が市教育委員会に聞くと、在学中に亡くなった児童の遺族に対する卒業式への対応には取り決めはなく、原則「学校と遺族の間で意向を確認して対応する」としている。希望があれば、卒業生番号を空欄にして名前だけ記した卒業証書を渡すこともできるという。

 友一君が通った市立小学校の校長に取材すると、前校長から「そっとしておいて」「遺族の意向があれば対応するように」と引き継がれていたとし「あえて連絡を差し控えた」と答えた。教員の間でも、この認識を共有していたという。

 ただ、真由美さんは「連絡を拒んだつもりはなかった」といい、意思疎通の難しさを浮き彫りにした形だ。校長は「遺族の意向を大事に対応したつもりだったが、逆の結果になり申し訳ない」と声を落とした。

    ■

 神戸市内の自宅。子ども部屋にはランドセルや列車のおもちゃがそのまま残され、食卓にも友一君の皿やグラスが並ぶ。算数が好きで、親子で問題を出し合って学ぶ時間を心から楽しむ子だったという。

 真由美さんも、学校とどうやりとりすればよかったのかと考えている。そして「今後、同じような思いをする遺族がいてほしくない」と願う。

    ◇

 神戸新聞社は、読者の投稿や情報提供を基に取材を進める双方向型報道「スクープラボ」に取り組んでいます。身近な疑問や困りごとから、自治体や企業の不正告発まで、あなたの「調べてほしい」ことをお寄せください。LINEで友だち登録(無料)するか、ツイッターのダイレクトメッセージで投稿できます。皆さんと一緒に「スクープ」を生み出す場。ご参加をお待ちしています。

スクープラボ
もっと見る
 

天気(10月27日)

  • 23℃
  • ---℃
  • 10%

  • 20℃
  • ---℃
  • 50%

  • 23℃
  • ---℃
  • 10%

  • 23℃
  • ---℃
  • 20%

お知らせ