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 1960~70年代の高度経済成長期に水質が悪化した神戸市兵庫区の兵庫運河で近年、多様な生物が確認されている。2020年からの調査では、アジやスズキ、キス、ウナギなどの魚類約60種が見られた。運河周辺の住民や企業が中心になって長年、水質改善に取り組んでおり、研究者らから「日本中どこを探してもこんな面白い場所はない」と注目されている。(谷川直生)

 兵庫運河は全長約6・5キロで、1899年に完成した。戦後は東南アジアなどから運ばれた木材の保管場所として利用され、沿岸には製材会社や材木商などが軒を連ねた。

 「子どもの頃から身近にあり、遊び場のような存在だった」。そう振り返るのは、運河の近くで神戸市内唯一となった製材業「三栄」を営む服部鋭治社長(73)。この地で生まれ育ち、運河の変遷を見てきた。71年に周辺企業約100社で設立した「兵庫運河を美しくする会」の活動にも長く携わり、21年からは会長を務める。

 全国で公害が問題視された60年代、兵庫運河でも工場や家庭からの排水、船から漏れた油、木の皮が沈んでヘドロ状に堆積したものなどで、水質汚染がピークに達した。水は濁って臭いが立ち、メタンガスも発生していたという。

 その後、神戸市の下水整備や工場排水の規制、美しくする会の年2回の清掃活動などで、環境は改善に向かった。服部さんは「特に直近の約10年の再生は目覚ましい」と話す。

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 兵庫漁業協同組合の漁師らとの「兵庫運河の自然を再生するプロジェクト」では、干潟で見つかったアサリの成育調査やアマモの移植に着手した。20年には人工干潟が整備され、近くの小学校の環境教育拠点として活用されている。

 加えて同年から年2回、水質や生息する生物の環境DNA調査を進めている。20年11月の1回目の魚類は約20種だったが、昨年11月の5回目は累積で約60種を確認した。マサバ、クロダイ、カタクチイワシなど5種は、5回のいずれも存在した。それ以外では、ブリやメバチ、アジなどが見つかった。

 調査に参加した大阪公立大工業高等専門学校(大阪府寝屋川市)の大谷壮介准教授(42)は「干潟が水を浄化することでアマモなどの海草や藻類の群生につながり、多くの種が生息する環境をつくっている可能性がある」とみる。

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 アサリも大小さまざまの個体が見つかり、大谷准教授は「世代交代している証拠。形も良く、大阪湾沿岸でこんなに良質なアサリが採れる場所は他にないのではないか」と話す。

 プロジェクトの中心メンバーで漁師の糸谷謙一さん(41)は「漁業者として多様な魚類が確認されるのはうれしい変化」と喜ぶ。

 一方で、兵庫運河では近年、アサリを餌にするナルトビエイの回遊も確認されている。糸谷さんは「エイは悪者ではない」と前置きした上で、「すむ環境が狭まり、ようやく見つけたのが兵庫運河だったのでは。共存する方法を見つけて、さらに多様な海をつくることが大切」と話している。

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