駅や商業施設などで誰でも弾くことができる「ストリートピアノ」が、全国で急増している。情報サイト「だれでもピアノ」によると、5月18日時点で648カ所にあり、3年前の約5倍に。一方で、ルールやマナーが守られず、近隣の迷惑になるケースもある。兵庫県加古川市のJR加古川駅では、苦情を受けて4月30日で利用を中止し、設置からわずか半年で撤去された。ストリートピアノは、果たして「文化」なのか、「騒音」なのか。
■飲酒して演奏。3時間以上独占も
加古川市は2022年11月、同駅にヤマハ製のアップライトピアノを設置。常設では市内初だった。
市によると、近隣が不快に感じる音を長時間奏でる人や、1回10分程度と定めたルールを守らない人がいた。3時間以上、独占する人もいたという。
このほか、飲酒した状態で弾く▽禁止している歌唱を伴って演奏する▽運用時間の午前7時~午後9時を超えて利用する-などのケースがあった。
市は、音量を抑える器具を取り付け、注意を呼びかける掲示をピアノに貼るなど、対策をとった。しかし、一部の利用者による迷惑行為はなくならなかった。
岡田康裕市長は「周りの人が迷惑と感じる弾き方をする利用者がいて、職員がやめるように働きかけたが、止められなかった」と話す。
その上で「近くで長時間、聞くことになる立場の人もいるので、設置を続けられる状況ではなくなった」と説明した。
撤去決定後、市にはメールや電話で約40件の意見が寄せられ、ほとんどが「残念」などと惜しむ声だった。
「何とかして継続してほしい」と求める人もいたという。
■「パフォーマンスの場に変容している」
撤去を伝える神戸新聞の記事がヤフーニュースに掲載されると、5千件近いコメントがつき、論争になった。
「数少ない関西のストリートピアノがなくなったと思うと悲しい」
「ストリートピアノを楽しんでいるので非常に残念」
惜しむ声が多い一方、ストリートピアノ自体に否定的な意見もあった。
「店員さんら一日同じフロアで働く人は、非常にストレスになる」
「どんなに上手でも、公共の場で隣の人と話もできないくらいの大きな音だと困る」
また、ストリートピアノの演奏を動画撮影し、公開するユーチューバーへの苦言もあった。
「最近のユーチューバーの影響で、上手な人しか弾けない雰囲気は嫌だなと思っていた」
「現状は自分のピアノ技術を披露し、動画を意識したパフォーマンスの場に変容している」
迷惑行為への対策として、「ワンコイン制に」「監視映像の記録を」などと提案するコメントもあった。
■全国で設置が急増。背景には…
ストリートピアノは欧州発祥。日本では、11年に鹿児島県の商店街で常設されたのが、初めてとされる。
ストリートピアノの情報サイト「だれでもピアノ」を運営する大木たくやさんによると、18年から国内で設置が急増した。
ストリートピアノを演奏する動画が、ユーチューブで爆発的な再生回数を記録し始めたことが影響しているという。
18年秋には、全国で数十カ所程度に設置されていたとみられるが、同サイトが始まった20年5月には135カ所に。さらに23年5月18日時点で648カ所に増え、3年間で約5倍になった。
大木さんによると、近隣店舗や通行者などからの苦情で撤去される例は、毎年数件程度あるという。
■吸音素材を取り付け、運用時間の変更も
ストリートピアノを設置している場所では、運営者が、さまざまな対策を試みている。
東京・豊島区は22年11月から、東京メトロ要町駅構内にグランドピアノを常設した。
区文化観光課によると、「音が響きすぎる」などの苦情が数件寄せられ、利用者に配慮を求める掲示を譜面台に付けた。
さらに、音量を抑える方策を楽器店に相談しているという。
同課の担当者は「駅の利用者に愛されるように運営をしないと、今後の存続が危うくなる。できるだけ長く設置できるように対策を考えたい」と話した。
ストリートピアノの設置箇所数が、全国最多の兵庫県ではどうか。
県内56カ所のうち、神戸市内に32カ所ある。そのうち27カ所は、市が設置している。
市文化交流課によると、「長時間、占有する人がいる」「音がうるさい」といった苦情が、年間数件程度ある。
これまで、音の大きさについて近隣店舗から相談があり、アップライトピアノの背面に吸音素材を取り付けたことがあるという。
また、阪急西宮北口駅前の商業施設「アクタ西宮東館」(兵庫県西宮市)では、20年の設置当初に午前10時~午後8時だった運用時間を、約1年後から正午~午後5時に短縮した。
ピアノを管理するアクタ西宮振興会によると、「音が大きすぎる」などの声があったためという。
斉藤孝之事務局長は「演奏を聞くのを、毎日楽しみにしている人もいる。撤去する考えはない」と話す。一方で、「不快に感じる人の声も無視できない。音が響き過ぎないような措置を検討したい」とする。
■どんな心構えで演奏すればいいのか
私たちはストリートピアノと、どのように付き合っていけばいいのか。
サイト「だれでもピアノ」を運営する大木さんによると、ピアノは演奏者に聞こえるよりも、周囲に大きな音が響いていることがあるという。
適度な音量で弾いていたとしても、店舗で流れている音楽と混ざれば、客が不快に感じることがある。
「だれでもピアノ」では、ストリートピアノのマナーを記載。強すぎる打鍵に注意▽ピアノの上に手荷物を置かない-などの注意点を記している。
演奏後に拍手をもらうと気持ちよくなりがちだが、長時間、占有しないように、「1曲演奏が終わったら、いったんピアノから撤収して周囲を見回してみて」と呼びかけている。
大木さんはユーチューブを念頭に、ストリートピアノの現状を「消費型のバラエティーコンテンツになっている」と指摘する。
アイドル的な人気を誇るユーチューバーの出現により、「手っ取り早く有名になれるツールになってしまっている。中には『弾いてやる』という上から目線の人もいる。ストリートピアノが、流行り物の『おもちゃ』になってしまっている」とする。
大木さんは「『ピアノを弾かせてもらっている』という気持ちが大切。謙遜する姿勢で弾いてほしい」と話した。
■ストリートピアノは日本に定着するか
「迷惑行為はなぜなくならないのか? 『迷惑学』から見た日本社会」などの著書がある金城学院大人間科学部の北折充隆教授(社会心理学)は「加古川駅でのケースは、少数の逸脱者が全体に悪影響を及ぼす、典型的な社会的ジレンマ状況だ」と指摘する。
また「日本のストリートピアノは黎明(れいめい)期にある。今回のニュースを受けたネットなどでの議論は、社会的なルールとして合意が形成されるきっかけになる。ストリートピアノが日本に定着していく上で、必要な過程の一つになるのではないか」と話す。
(斉藤正志)

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