現在の兵庫県域に生息するニホンジカの個体数が、過去10万年で最多水準に増えていることが、森林総合研究所(茨城県つくば市)の研究で分かった。兵庫県内で捕獲したシカの塩基配列を解析し、長期的増減を推定した。シカの食害は県内各地で深刻化しており、頭数が過剰に増えていることを遺伝学的手法で裏付けた。(長谷部崇)
ニホンジカは数十万年前から日本に生息する在来種。明治期の乱獲で激減し、国は戦後、雌を禁猟として保護したが、近年は増えすぎた個体による農林業の食害や植物種の減少、車との事故などが全国的に問題化している。
兵庫県内の2021年度末の推定個体数(中央値)は、13万7649頭に上った。但馬や西播をはじめ、都市部を除く広範な地域に生息し、神戸・阪神地域にも分布を拡大している。
研究は、兵庫県立大の協力で、県内全域で20年度に捕らえたシカの肉片などから100以上のサンプルを集め、DNAを抽出。塩基配列の情報をもとに、過去10万年で繁殖に関わった個体数の増減を推定した。
塩基配列は個体によって異なり、突然変異と個体数の変動で変異が起きる。解析すると、個体がいた地域の過去の集団動態を推測できるという。
時系列では、明治時代が始まった頃の約150年前から個体数が激減した=グラフ。乱獲などが理由とみられ、400年前を基準とすると、100年前には100分の1以下と過去最低の水準まで落ち込んだ。しかし、その後は禁猟の影響か急増に転じ、現在の個体数は過去10万年で最多と推定された。
また、約1500年前までは400年前の10分の1ほどで推移していた。人が恒常的にシカを狩猟していた時期が含まれ、その後に農業の広がりで捕獲活動が弱まり、生息数が増えたと考えられるという。
一方、シカが増減したタイミングと、気温、降水量が大きく変動した時期やオオカミが存在した時期との関係性は、明確には認められなかった。
森林総合研究所野生動物研究領域の飯島勇人主任研究員(43)は「シカの増減には人の捕獲活動が大きく関わっていると考えられ、人が個体数を継続的に管理する必要がある」と話している。
遺伝学的手法によるシカの個体数の推定は、世界初という。研究成果は今年3月、英国の国際学術誌にオンライン公開された。
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