現在、国内で販売される新車の9割は、スペアタイヤの代わりにパンク修理キットを搭載している。しかし周知が徹底されず、車検の点検項目にもないため、パンクしても知らずに使わないドライバーが目立つ。修理剤の有効期間は4~6年で期限を過ぎているケースも多いと懸念される。キットを製造する大手タイヤメーカーは、注意喚起するとともに、キットの一般向け販売を始めた。(大島光貴、石川 翠)
「有効期限を確認して定期的に交換してください」。大手タイヤメーカー住友ゴム工業(神戸市中央区)の営業担当者が力を込める。同社はパンク修理キット製造の国内最大手。国内外の自動車メーカーに累計約8300万台分(2022年末時点)を販売し、国内シェアは6割。欧州でも4割を占めるトップメーカーだ。
同社によると、修理キットは1996年、欧州の高級車に世界で初めて採用された。日本では、99年に初めてミニバンに搭載。スペアタイヤより安価で軽く、燃費改善にもつながるため、2005年ごろから自動車各社で採用が進んだ。タイヤ大手のブリヂストン(東京)なども自動車メーカー向けに供給しており、国内の新車の9割に積んであるという。
しかし、国民生活センターの18年調査では、所有する自動車に緊急対応時用の装備があることを認識している人のうち、57%が装備品は「スペアタイヤ」だと思っており、「パンク修理キット」と答えた人は39%にとどまった。また、自動車所有者の4人に3人がパンクを経験していた。
修理キットは、従来スペアタイヤが置かれていたトランクルームなどに収納されている。ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)など、バッテリーを積むために空きスペースの少ない車が増えたことも、コンパクトな修理キットの導入を後押しした。
キットは、くぎやねじが刺さった程度の応急修理を想定。タイヤの空気注入口にホースをつないでスイッチを入れると、10分以内に修理剤と空気が注入される。そのまま車を走らせると圧縮と熱で修理剤が固まり、穴をふさぐ仕組みだ。
ただ修理剤は有効期限を過ぎると天然ゴムの分子が固まって液の量が減り、穴をふさげない恐れがある。
「パンク修理で持ち込まれる車の多くは、キットを使用せず積んだままのことが多い」と、兵庫県伊丹市のタイヤ販売店の畠山和紀店長(49)は話す。「車検の項目になく、なかなか意識するタイミングがないのではないか」とみる。
住友ゴムは、国内の大手タイヤメーカーで唯一、修理キットを一般向けに販売している。参考小売価格は軽乗用車や小型車向けの小サイズが8750円(税別)、大サイズが9350円(同)。同社のタイヤ直営店などで取り扱っている。
問い合わせは同社タイヤお客様相談室TEL0120・39・2788
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