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聞き書き 嗚呼、コロナ

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連れ添う
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 7月12日のことです。

 自宅近くで、飲食店の男性店主が自転車で転倒しました。頭が腫れているのに買い物に行こうとして、自転車にまたがろうとしてふらふらし、前もよく見えていないようでした。

 体を支え、行くのを止めようとして押し問答になりました。119番通報しようとしたら、男性はマスクをせず「余計なことをするな」と怒鳴りました。

 私はマスクをしていましたが、顔に飛沫(ひまつ)を浴びました。

 帰宅を見計らい、奥さんに状況を伝えました。男性は朝から熱があったそうで、コロナを疑いましたが、元々肝臓などが悪く通院していたとのことで、すっかり信用していました。

 その2日後です。私の具合が悪くなったのは。

 高熱と喉の痛みです。慌てて男性宅を訪ね、インターホン越しに聞くと、男性は「わしは陽性だった。でも軽症やから大丈夫。風邪みたいなもんや」と。

 介護役の私が感染すれば両親も危ない。特に父は重い病気を抱えています。

 「父は死んじゃうよ。あなたのせいやで」と伝えると、男性は「大げさや。うちは関係ない」と言い放ちました。

 17日、父は38度以上の高熱が出ました。わがままな人でしたが「大丈夫や。頑張るからな」と気遣ってくれました。ですが18日朝、病院に運ばれ、翌朝、死亡。その翌日、骨つぼに入って自宅に帰ってきました。

 私も母も感染者なので、病院を見舞うことも、お通夜も葬儀も、焼き場に立ち会うことすらできなかったのです。

 父が寂しくないように、自宅でみとりの準備をしていたのに。この悔しさを誰に、どう訴えたらいいのですか。私は後悔して泣いてばかりでした。母も、父の写真を抱いてうずくまり、泣いているようでした。

 熱があっても出歩いている人がいると聞きます。自分は大丈夫でも、周囲には体の弱い人がいるんです。

 これがどんなに危険で、無責任なことか。

 どうしてもお伝えしたくて。(井川朋宏)

2022/9/16
 

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