最近、若い人たちへのメッセージを求められる機会が多くなりました。このような時には、私自身が若い頃に体験したことや、感動を受けた言葉について話しています。その一つに、90年代にポスドク(博士研究員)として留学していた米グラッドストーン研究所の当時の所長から教えられた言葉、「Vision(ビジョン) & Work Hard(ワーク ハード)」があります。長期的な目標を立て、それを実現するために一生懸命働く、という意味です。科学者としても、人間としても成功するためには、ビジョンとワーク ハードの両方が不可欠と聞いて自分自身を顧みたとき、ビジョンがないことに気づきました。そして、「自分の長期目標は何だろう?」と深く考えたのです。それ以後、常にこの言葉を胸に仕事に取り組んでいます。
13年前に、奈良先端科学技術大学院大学で初めて自分の研究室を持ったときにも、まず研究室の長期目標を考えました。それが「体細胞からES細胞(胚性幹細胞)に類似した幹細胞を作る」でした。ES細胞は、無限に増殖する能力とどんな細胞にも分化する多能性を有するため、将来の医療応用が期待されていました。しかし、ES細胞を作るには初期胚を破壊するという倫理的に大きなハードルがあり、これを克服したいと考えたのです。当初、このビジョンの実現には数十年はかかると思っていましたが、幸いにも優秀な技術員さんや学生さんらの惜しみない努力のおかげで、数年で達成できました。こうして作り出した細胞をiPS細胞(人工多能性幹細胞)と名付けたのです。
さて現在は、iPS細胞研究所の所長として、iPS細胞という基礎研究の成果を、一刻も早く患者さんのもとへ届けるというビジョンを掲げ、研究所員と共にワーク ハード、一生懸命努力しています。
(山中伸弥=京大iPS細胞研究所所長・教授)
2013/2/21








