家族を失った悲しみは、いつか癒えるのだろうか?
遺族に会って話を聞いてきた私たちは、グリーフ(悲嘆)ケアの専門家を訪ねることにした。
神戸市中央区、神戸赤十字病院心療内科の村上典子医師(56)は「悲しみがなくなることはありません。心も生活も、元通りにはなりません。傷口には薄いカサブタがあるだけで、引っかくとまた血が流れます」と話した。
村上医師の診察室に通う患者の中に、阪神・淡路大震災で11歳の娘を亡くした神戸市須磨区の女性(66)がいる。
私たちが連絡を取ると、女性は「心療内科は否定や反論をされず、スポンジのように話ができる所。日々、息を詰めるように生活をしていた中で、呼吸ができた場所です」と答えた。
寄り添う村上医師にあらためて話を聞く。「遺族が自身の語りを通じて、心に落ちるところを得ることが大事です。私のもとを『卒業する』と言った患者さんが何人もいます。悲しみは形を変えていく。人は悲しみと付き合うすべを知っていくのだと思います」
◇ ◇
大阪市東淀川区の淀川キリスト教病院は2016年、グリーフケア外来を開設した。カウンセリングを担当する公認心理師の出崎躍(やく)さん(36)に会うと、「公認されない悲嘆をサポートしたいのです」と言った。
公認されない、とは?
流産や死産、家族ではない友人や恋人の死、死の状況が話題になりにくい自死…などが、それに当たるという。
小児科に所属する出崎さんはこれまで、生まれて間もない赤ちゃんを亡くした親の悲しみに触れてきた。病院の外に出ることのなかった小さな命。親たちは人知れず涙を流し、周囲の無神経な言葉に傷ついている。
「いつまでも泣いて、悲しんでいる自分は良くないのでしょうか?」。外来にやってきて、そう話す親たちに、出崎さんは「悲しみ」と「愛しみ」と書いて示す。
そして「愛しみは『かなしみ』と読めます。悲しみは愛なのですから、亡き人を思うのは当たり前」と説明する。
「悲しみをやっかいなものととらえないでほしい。心も体もないけれど、語り掛け、思い続けることで一緒に生きている感じがする。『見えないつながり』を感じることが、心の回復にもつながると思います」
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