眠りの森のじきしん
まだお正月気分に浸っていた2016年1月8日の午後。じきしんを乗せた車が交通事故を起こす。
運転手はじきしんの祖父=当時(68)。お気に入りの英会話教室に通うため、週に一度、祖母(65)と一緒に車で1時間半ほどかけて丹波篠山市内まで送る途中だった。
車はハイエースを改造したキャンピングカー。祖母が助手席に、じきしんは後部座席にいた。
車は白い石畳で舗装された城下町のバス道を走っていた。そのとき、祖父の運転が突然、乱れた。
祖父は8年前、脳梗塞で倒れたことがある。一時はまひが残ったが、早期だったこともあり、リハビリで全快していた。ただ、再発を防ぐための薬を飲んでいた。
じきしんを乗せた車が前方を走っていた車にぶつかった。「何してんの?」。驚いた祖母が運転席を見ると、祖父がうつろな目で「あぁ…」と声を漏らした。
祖父はハンドルをやや右に切ると、急にスピードを上げた。体が前に倒れ、アクセルを強く踏んでしまったようだ。バス停に止まっていた路線バスのサイドミラーにぶつかり、そのまま猛スピードで直進した。
約100メートル先はT字路。行き止まりだ。3人を乗せた車はコンクリートの硬い壁に激突し、大破して止まった。
神戸市内の会社に勤めていた母、優里さん(45)の携帯電話が鳴る。出たのは知らない高校生だった。
「あなたの家族が大変なことになっています!」
いたずら電話かな? 状況を把握できずにいると、知らない女性がまた電話をかけてきた。
「大変なことになってるんよ。でも、こっちで何とかしてるから。任せて。あなたは心配いらないから。大丈夫やから」
携帯電話の奥から祖母のうめき声が聞こえた。
「じきしーん…、じきしーん…」
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