シニア
結婚してウン十年、子どもたちは家から巣立ち、再び夫婦水入らずの暮らしが始まる-。しかし、それを新婚のように楽しめる人ばかりではない。連れ合いに先立たれ、あるいは離婚して新たな伴侶と第2の人生に踏み出す人がいれば、家族に内緒で出会いを探す人もいる。人生経験を積み重ねた男と女が、パートナーに求めるものとは? シニア世代の恋愛事情、聞いてみました。
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目が不自由なお年寄りが暮らす、兵庫県洲本市の養護盲老人ホーム「五色園」。奥田弘さん(90)と妻の晏江さん(80)は、間もなく結婚6周年を迎える。二人の部屋は隣同士。「いつもここでおしゃべりするのよ」という晏江さんの部屋で、なれそめを聞いた。
「まさか再婚するとはねぇ」。
出会いは7年前の冬、早朝だった。ともに神戸市内の施設に入所していたが、面識はなかった。「私と同じショートステイで入っている人がいると聞いて、今後もここにいられるのか相談してみたくて」と晏江さん。毎朝散歩に出掛けるというその男性に話し掛けたのがきっかけだった。
その男性とはもちろん弘さん。「急に抱きつかれたんや」「またそんなこと言って。つまずいただけよ」と笑い合う。あの日から、毎日連絡を取り合うようになった。
弘さんは生まれつき目に障害があり、42歳で全盲に。前妻と結婚して3人の子どもに恵まれたが、前妻は弘さんが72歳の時に亡くなった。一方の晏江さんは早くに前夫を亡くし、息子は既に独立している。14年前、66歳の時に突然病気で倒れて視力を失い、入院やリハビリを経て弘さんのいる施設に入所。「出会いってどこにあるかわからないわね」と言葉に実感を込めた。
早朝の出会いから始まった恋。晏江さんは「毎日電話するもんだから、携帯電話の代金が高くなって、子どもたちに『どうしたん』とびっくりされた」と笑う。時には隣人に話し声が聞こえないよう、布団に潜り込んで電話をしたことも。「年を取ってもやっぱりときめくのよね。会いに来る時は足音に耳を澄ませたりして」。ふふっと思わず笑みがこぼれる。弘さんが講師を務めていた川柳教室にも通った。
当時、施設の2階に住んでいた弘さんは、3階の晏江さんの部屋を訪ねる時、毎回袋に1本のサイダーを入れて持って行った。理由を聞くと「飲むためじゃない。もし他の人に会った時に、手ぶらだとおかしいから。口実や」と教えてくれた。
周囲にうわさされるようになって、結婚を決めた。晏江さんは「こそこそせず、気兼ねなく過ごせるようにしようって。人生1度きりだから」。弘さんが1句贈ってプロポーズすると、晏江さんも「朝早く 出会いを胸に 急ぎ足」と返した。出会いから数カ月、2013年春に施設内で同居を始め、同じ年の11月7日、婚姻届を提出した。
施設で仲の良かった知人に誘われ、五色園に移ったのは2年前。二人の結婚に全面的に賛成というわけではなかった子どもたちも、今では孫やひ孫を連れて会いに来てくれる。
二人の楽しみは視覚障害者向けの録音図書で、弘さんは時代小説、晏江さんは恋愛小説をよく聞くのだそう。「奥田に勧められて聞き始めたの。今はこれがないとだめね」と晏江さん。予想もしなかった突然の失明に落ち込むことが多かったが、弘さんがいつも前向きに励ましてくれた。「出会ってから、教えてもらうことが多いのよ」
結婚して良かったことを弘さんに尋ねると「毎日の乾布摩擦を手伝ってくれることと熱いお茶を出してくれること…。もう堪忍して」と照れ笑いを浮かべた。毎朝バナナを1本食べ、乾布摩擦を欠かさないそう。「それが元気の秘訣やね。風邪も引かないし」と語り掛ける晏江さんに、弘さんは「不死身やな」と、ちゃめっ気たっぷり。
では、お互いに好きなところは-。弘さんは「よくしゃべるところ。しゃべり出すと止まらん。出会えて良かった」と即答し、晏江さんも「ほんとに前向きでいつも頼りにしてるの。お願いするわね、これからも」と顔を見合わせ、優しくほほ笑んだ。(赤松沙和)
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