イヌワシを追って 孤高の雄姿大空を舞う

「ヒナ誕生のチャンスかもしれん。例年以上に力が入るわ」。日本イヌワシ研究会(事務局・東京)の会員、三谷康則さん(68)=姫路市夢前町=が熱っぽく語る。
三谷さんは絶滅危惧種イヌワシの観察、撮影を40年以上続けているベテラン。今年5月、これまで未確認の若いオスと以前から生息する20歳近いメスが、ペアで旋回するのを目撃した。早ければ来春、13年ぶりとなる繁殖の可能性も。今秋からの観察に期待が膨らむ。
兵庫県の北。県内最高峰の氷ノ山(1510メートル)に連なる山あいに、夏場を除き週1日のペースで赴く。初めての出合いは、1973年12月。野鳥調査で偶然、風雪の空に垣間見た孤高の雄姿にすぐさまとりこになった。
当時、県内の生息数は約40羽とされていたが、里山の荒廃など生息環境の変化もあり、現在は最大7羽とみられている。自身の周りも年月を重ねて変わった。県内20人近くの観察仲間は高齢化。現場に立ち続けているのは三谷さんのみという。
「イヌワシと自分。どっちが先にいなくなるかなぁ」。そう思って苦笑いすることもたびたびながら、観察スタイルは不変だ。撮影ポイントには朝6時に入り、カメラに大型の超望遠レンズを装着して出現を待つ。夕方までほぼ仁王立ち。20代半ばにわしづかみされた心で空を見上げる。
(映像写真部 風斗雅博、中西大二)
〈イヌワシ〉タカ目タカ科。低山-高山の森林や崖に生息し、成鳥の後頭部は金茶色で、広げた両翼の幅は2メートル前後になる。里山の荒廃などで個体が減少。現在、県内の生息数は最大7羽とされ、絶滅危惧種をまとめた兵庫県レッドデータブックでは「A」ランクに指定されている。