東日本大震災7年 牧秀一さん福島訪問

神戸での被災者見守り活動を続けるNPO法人「阪神淡路大震災よろず相談室」の理事長、牧秀一さん(68)が3月、東日本大震災から7回目の春が巡る福島県を訪れ、交流を続ける中学生の卒業式に出席した。「隣におるから」。あの日交わした約束を果たすために。
2年前まで全村避難が続いた同県葛尾(かつらお)村。約30キロ離れた三春町の臨時校舎で学んだ葛尾中の3年生は2015年、1年生の時に旅行先で牧さんと初めて会った。「頑張りすぎるな、楽しい思い出をつくれよ」。その言葉を覚えていた男子生徒(15)は「僕たちのことを忘れずに、思ってくれていた」と、晴れの日の再会を喜んだ。
阪神・淡路大震災直後から被災者支援を続けてきたが、決して愛想良しではない。涙もろくもない。教訓めいたことは、それほど語らない。被災地を巡る旅程は適当に決める。酒は意外と弱い。テニスで鍛えた体は最近、少しだけ体重が増えた。
復興住宅に暮らす人生の先輩とも、進路に悩む中学生とも、同じように語り合う。相手はみんな、穏やかでいい顔をしていた。
支援は「ただ隣におるだけでええねん」が口癖だ。学校長から来訪への感謝を伝えられると「そんな大層なことちゃいますよ。息抜きみたいなもんですから」と返した。
23年間。いや、阪神・淡路のずっと前、定時制高校の若い教員だったころから、誰かの隣に居続けてきた。「寄り添う」とは違う。「絆」を求めているのでもない。人知れず悲しみ、苦しむ人の前では隣に居ることしかできないことを思い知る、そんな道のりを歩み続けてきた。
葛尾中の卒業式、生徒が自作の歌を披露した。生徒も恩師も保護者も地域住民も、泣いていた。来賓席に、その人の姿があった。歩みを重ねた子どもたちが巣立つ姿は、涙がにじんで見えなかった。(映像写真部 大山伸一郎)