喜楽館と新開地

昼下がりの新開地の街に、寄席の開演を告げる一番太鼓の音が威勢よく響く。「どん、どん、どんと来い」と聞こえる独特のリズムに誘われるように、巨大な提灯(ちょうちん)の下にある入り口へ人が吸い込まれていく。そんな光景が、すっかり日常になってきた。
7月にオープンした「神戸新開地・喜楽館」。戦前には「東の浅草」と並び称された大衆娯楽の街に42年ぶりに復活した演芸場だ。午後2時からの昼席では、上方落語を毎日上演する。
約200席の館内は平日でも多くの人でにぎわう。週末には家族連れも訪れ、老若男女の笑いに包まれる。終演後は出演者がお客をお見送り。お客は「面白かったわあ」「また来るで」と、握手や写真撮影で交流を深め、笑顔で帰路に就く。
運営するNPO法人「新開地まちづくりNPO」の藤坂昌弘事務局長(36)は「団体ツアーの予約もあり、出だしは順調。街全体で盛り上げていきたい」と手応えを感じている。
昼から酒を飲む人が多い「おやじの街」の印象が強い新開地。だが、喜楽館の近くで営業している「源八寿し」の若大将、新(しん)将一郎さん(41)は「オープンしてからは女性のグループが増え、街の雰囲気も明るくなった気がする」という。
同店をはじめ、喜楽館周辺の約20の飲食店などでは、半券チケットを提示すると割引や一品サービスを提供。新さんは「寄席に来たお客さんに食事や買い物で新開地の街を楽しんでもらい、かつてのにぎわいを取り戻したい」と願っている。(映像写真部 後藤亮平)