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災間にありて 東日本大震災10年

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東北大災害科学国際研究所助教・定池祐季さん=北海道厚真町(提供写真)
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東北大災害科学国際研究所助教・定池祐季さん=北海道厚真町(提供写真)
「被災地同士の連携が、次の被災地が困らない知恵を生む」と語る定池祐季さん=北海道厚真町(提供写真)
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「被災地同士の連携が、次の被災地が困らない知恵を生む」と語る定池祐季さん=北海道厚真町(提供写真)

 1993年の北海道南西沖地震を、最大の被災地、奥尻島で経験した。中学2年だった。その1年半後に起きた阪神・淡路大震災には、全国各地からいっぱい支援を受けてうらやましいと思ったのを覚えている。

 2010年から1年間、人と防災未来センターの研究員として神戸で暮らした。節目節目に丹念に復興の課題を検証する市民や研究者の存在が印象的だった。スルメのように何度もかんで編み直し、新しい着眼点を見つける姿勢に影響を受けた。

 こうした経験を経て、私は今、東日本大震災に見舞われた東北の地で、災害文化の継承や地域社会に根ざした防災教育などを研究している。北海道・胆振(いぶり)東部地震で被災した厚真町でも、児童・生徒らの心理支援に携わっている。

 阪神・淡路と東日本を「二つの震災」として取り上げるのには抵抗がある。二つの前後にたくさんある他の被災地のことを忘れてはいけない。私の原点は奥尻島にある。あの災害の意味を知りたいと思い、研究者になった。

 阪神・淡路、東日本に限らず、被災者同士だからこそ共感できる言葉がある。被災地同士は、次の被災地が困らないよう共に知恵を出し合う関係になれる。被災地が自分たちの言葉で発信する力を養いたい。

 東日本から10年。被災から27年を経た奥尻の現状を聞かれる。数々の被災地を歩いてきた自分にしかできないことがあると思っている。

■奥尻で被災、研究の道へ。神戸で学んだ「人を大切に」

 -奥尻島で北海道南西沖地震を経験した。

 「小学6年で奧尻に転校し、中学2年のときに地震が起きた。1983年の日本海中部地震で津波を見た同級生たちと違って、私は津波という言葉すら知らなかった。たむろする場所がないときは、島の防潮堤に腰掛けて話していたくらい。約1分半の長い揺れの後、『逃げるぞ』という近所の人の呼び掛けで家族と高台へ逃げ、車中泊をした」

 「未災地で『奧尻さん』と呼ばれる経験も味わった。語っても傷つくだけだと心を閉ざした時期もあったが、奧尻での体験がその後の災害研究につながった」

 -阪神・淡路大震災に対して複雑な思いも抱いた。

 「『ボランティア元年』という言葉が広がったが、奧尻が『ボランティア前夜』だったことは全然知られていない。奧尻にも物資仕分けなどでたくさんのボランティアが来てくれたし、奧尻から阪神・淡路へ行った人もいる。奧尻のことが忘れられてしまうのではと不安だった」

 -現在取り組む研究は。

 「宮城県石巻市で震災遺構に込められた住民感情や伝承の役割を調べている。行政が公的に残したい施設もあれば、住民が子孫に伝えたい心象風景もある。残す、残さないという議論の域を超えて、まずは現場で耳を傾けている。他に、宮城県内陸部での自主防災組織づくりや、北海道厚真町で子どもたちへの心のサポート授業を続けている」

 -東日本大震災から10年。3・11の課題を伝える難しさは。

 「被災地が広く、一緒くたに語れない。原発問題など今も続く課題があり、目配りしなければいけないものが多すぎる。総括はしようがないし、下手にすべきではない。例えば、避難所が帰宅困難者であふれかえった仙台では、その教訓から在宅避難が推奨されている。だが、地域ごとに課題は全く異なる」

 -研究者として大切にしたい思いは。

 「宮城にいると『防災至上主義的』なものを感じる。経験を語り継ぐ活動も『防災のため』という空気がある。大好きなおじいちゃんのため、とか家族が生きた証しのため、という自由な部分があっていいはず。成果を意識しすぎているように感じる」

 「阪神・淡路からは人を大切にする姿勢を学んだ。人、人と言われすぎて最初は違和感があったが、自分自身の見方も変わってきた。復興において、『最後の一人まで』は大切にしたい原則だ」

 -防災教育に取り組んでいる。

 「使うのは自分の失敗談。奧尻での地震で、お年玉で買ったCDラジカセを守ろうとタンスを押さえ、その場に座り込んでしまった。その10年後の十勝沖地震でも、ミニコンポをとっさに押さえてしまった。地震時に物を押さえるのは危険行動であり、そもそも棚などは固定すべき。専門家でもこうだったんですよと言って、笑いを取っている。自分で備えることが安心につながることを伝えたい」

(聞き手・竹本拓也)

=おわり=

【さだいけ・ゆき】1979年、北海道生まれ。北海道大大学院文学研究科修了。人と防災未来センター(神戸市)、東京大大学院を経て、2017年4月から現職。専門は災害社会学、地域社会学、防災教育。語り部など災害の伝承も研究テーマとする。仙台市在住。

2021/3/1
 

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