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(1)地域崩壊 弱者を直撃 「介護保険」見据え戦略
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被災地にシルバービジネス
 神戸市長田区のJR新長田駅に近いビルの一室。シルバービジネスを手がける「ヘルシーライフサービス」(本社・東京)の神戸営業所は、ベンチャー企業といった雰囲気が漂っていた。

 九つの机が並び若手社員ばかり。パソコンと電話が置かれ、きちんと整理されている。「配食サービスはいわば先行投資です」と、話す所長の松田立美さん(37)は、ざっくばらんだった。

 神戸市が高齢者・障害者向け地域型仮設住宅千五百戸を対象に配食サービスを始めたのは、昨年十一月だ。一食の経費八百円は、自己負担が四百五十円、国・市が三百五十円。希望者のみだが、百八十人が利用している。

 実施に先立って市は、コンペを行った。委託を希望したシルバー企業、食品会社など七社が食事の提案や見本を出し、学識経験者らを交えた業者選定委員会が選考した。

 「ヘルシーライフサービス」は配食、入浴、ホームヘルプサービスなどに事業展開し、年商約二十億円。兵庫県内では神戸、西宮、美嚢郡吉川町で入浴サービスの委託を受ける。選定委が同社に決めたのは、東京での実績と、温かいものは温かいまま提供する宅配システムだったという。

 食事は神戸市内で調理され、毎朝十一時、同社のパート社員らが各家庭に届ける。松田さんは「人件費などを入れると四百食でようやく黒字が出る。百八十食では一カ月百五十万から二百万の赤字」と数字を挙げながら、続けた。

 「被災地での取り組みは、他の自治体の先例になるし、大都市での受託は企業PRにもなる。介護保険導入に向けた戦略の一つです」

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 震災後、仮設住宅など被災地の高齢者の福祉ニーズは急増した。環境の激変で高齢者の心身機能は弱まり、家庭の介護力は低下した。支え合っていた地域社会は崩壊した。

 ニーズの高まりにどうこたえるか。「神戸市はもともと福祉分野での外郭団体や民間の活用に積極的だったが、震災で拍車がかかった」と福祉関係者は言う。

 震災前から、神戸市は社会福祉協議会を通して入浴サービスを、先のヘ社と「サン・ルーム」(本社・愛知県豊田市)に委託していた。入浴サービスの委託量は増え、配食サービスが新たに加わった。

 この春、神戸市は灘、兵庫、長田区でモデル実施している二十四時間ホームヘルプサービスを、北、西区に拡大する方針を明らかにしている。現在、サービスは社会福祉法人に委託しているが、拡大時には委託先にシルバー企業も検討する。すでに市には、企業から打診があるという。

 「民間委託のメリットはコストとノウハウ。委託といっても、入浴サービスの手順など統一し、『神戸市印』でやっている。さまざまな方法を活用することによって、最小のコストで最大の効果が上げられる」と市高齢福祉部は話す。

 家事などを手伝うホームヘルプサービスについても市は、外郭団体「こうべ市民福祉振興協会」の登録有償ヘルパーを四百人増員して対応する考えだ。

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 兵庫県が全仮設住宅約四万三千戸を対象に行った調査では、世帯主が六十五歳以上の高齢者世帯は、四二%にのぼる。

 県内平均の高齢化率一四%をはるかに上回る「超高齢社会」の仮設住宅群が、点在している。そこでのシルバービジネスの活動、行政や福祉法人、ボランティアなどのさまざまな取り組み。被災地での福祉をめぐる動きは、公的介護保険の導入が計画される将来の高齢社会を先取りした形にも見える。

 だれが福祉を担うのか、高齢者や障害者ら一人ひとりが安心できる暮らしを保障するには何が必要か。「復興へ第10部」は、被災地での取り組みを通して福祉の今後を考えたい。

1996/5/19
 

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