阪神大震災から二年四カ月を経て、いまなお心のストレスに悩む人たちがいる。震災では、被災者の心のケアとともに、救助に当たった消防、警察やボランティア、教師ら救援する側のストレスの問題も指摘されてきた。国内ではまだ明確な対処法が確立されていないなか、こうした救出・救援活動のプロやボランティアのストレスとケアを考えるビデオ「救援活動とストレスケア」が完成し、十七日、神戸市内で発表される。ビデオを制作した神戸、大阪YMCAの担当者は「助ける側にも、癒(いや)しが必要。弱音をはくべきでないとする社会環境が問題を潜在化、深刻化させる」と指摘する。
救援側の災害ストレス調査は震災後、国内で初めて行われた。震災約一年後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性を指摘された消防職員は被災地で二九%に上った。
ビデオは入門編(二十五分)と応用編(五十分)に分かれ、災害のショックや怒り、被災者に接することで生じる無力感などで救援者もPTSDを負うと説明。職業的特性を備えた消防士や警官も目標達成感がないと、ストレスを生じやすいとしている。
ベトナム戦争や地震災害を通し米国で発展してきたケアを紹介。対処法として、現場での出来事や感じたことを吐露し合うデブリーフィングを挙げている。
ボランティアや公務員によるデブリーフィング収録に当たった武庫川女子大教育研究所の白石大介教授は「災害ストレスは正常な人間の反応。弱いのは自分だけではないと共感できる環境づくりが大切だ。頑張りを強いる文化が壁になる」と助言する。
堺市のO157問題で心身とも疲労した教員を対象にデブリーフィングを行った大阪府立大学の倉石哲也助教授も制作に協力した。
ビデオを披露する「こころのワークショップ」は十七日、YMCA六甲研修センターで開かれ、二日間の日程で地震後の心のケアに取り組んだレイコ・ホンマ・トゥルー・サンフランシスコ公衆衛生局副局長(当時)らが国内外の取り組みを報告する。ビデオはYMCAで貸し出す予定。
<PTSD>
災害による喪失感や無力感、絶望感が、無気力、不安、怒りの感情、不眠などの症状を引き起こす。多くは自然に回復するが、回復に長期間かかることもある。
1997/5/17