阪神大震災後に発生した火災をめぐり、被災者が損保会社や共済組合などを相手に、火災保険金の支払いを求めている訴訟で、最大規模の集団訴訟になっている神戸市東灘区魚崎北町の原告団長らがこのほど、保険金支払いを定めた商法に焦点をあてた論文をまとめた。同町の火災は地震から八時間後に発生し、出火原因も不明のままだが、原告らは損保などの約款にある地震免責条項を盾に支払いを拒否された。論文は、同条項が法律に反している・と一市民の立場から考察。災害対策に関する保険金の在り方の点からも注目を集めそうだ。
執筆したのは、同原告団長の新戸建男さん(54)と、自宅が全壊した池田綾子さん(51)。
魚崎北町の火災は、震災当日の午後二時すぎに発生、約百世帯が全焼した。訴訟は一昨年十一月、住民七十三人が損保会社など十七社・団体を相手に起こした。
今回、二人が取り上げたのは商法六六五条。同条は戦災などを除き「火災によって生じた損害は、その火災の原因の如何(いかん)を問わず保険者がその損害をてん補しなければならない」と定めている。
しかし、被災者らは、地震火災には保険金を支払わないとする約款の地震免責条項を理由に、支払いを拒否された。
論文ではまず、免責条項の有効性について問題を提起。一九二三(大正十二)年の関東大震災後、被災者が免責条項をめぐって起こした同様の訴訟で、「有効」とされた判例がその後、判例、学説として定着してしまった経過を説明し、「(商法の)条文からは、保険金は支払われるとしか読めない。学者とは別の観点から、一般の被災者の立場で条文を考え直したい」としている。
一八八四(明治十七)年の商法草案当時から条文成立の沿革も解説している。
池田さんは「本当に正しい法律解釈がされてきたのか。被災した住民が、大変な思いをして提訴した意味を考えてほしい」といい、新戸さんは「関東大震災当時は、損保会社が倒産する危険性があり、判決にも影響した。損保が巨大企業になっている今とは時代背景が違う。幅広い論議を期待したい」と話している。
論文は、地震保険に関する法案が論議された国会大蔵委員会会議録などの資料とともに「兵庫県南部地震と火災保険訴訟・被災者から見た商法六六五条」(仮題)として出版を予定している。発行時期、出版社などは未定。
<火災保険金訴訟>
震災後の火災保険金支払いをめぐる訴訟は、神戸地裁などで約十五件が係争中。原告数は計約百五十世帯にのぼり、約款の有効性などが最大の争点になっている。魚崎北町の集団訴訟は、一部で証人尋問が始まったばかり。判決は早くても再来年以降になるとみられている。
1997/6/17